【おまけ】鼠アレルギー ページ28
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魔都ヨコハマに、潜り込んだ鼠
魔人の二つ名まで囁かれる鼠を探し出し、追い詰め、捕らえようと駆け回る猫が私だった
「────見つけた……」
一心不乱に追い掛けても、人混みを上手く渡り歩く彼になかなか届かない
けれどロシア人の彼は、ヨコハマに来てまだ間もないのだろうか、次に彼が曲がった角の先は
「……袋の鼠だ」
そう、行き止まり
追って覗けば、突き当たりのフェンスをぼんやりと見上げる彼の後ろ姿が確認出来た
大通りと違い、辺りに幾許かの静けさが漂う
「フョードル・ドストエフスキー」
鼠の名を呼ぶと共に、じゃらりと鳴った鎖の音
警戒しながら歩み寄った私が、ここまで近付いても動きを見せない呑気な彼に、手錠を掛けた音だった
「貴方を逮捕します」
「……おや」
私が手錠を掛けた手首に目をやってなお、表情を変えずに一言だけ零した彼
こちらを向く読めない瞳に、私の中の何かが惹き込まれそうになる
そんな感覚を振り払って
「大人しく、付いて来て下さい」
と、声を硬くして云ったのと同時に
__じゃらり
また鳴った金属音、冷んやりとした手首、その理由は私の手に掛かる手錠のもう片方の輪っかで
手錠は、彼の右手と、私の左手を繋いでいて
「どういうつもりですか」
「袋の鼠は貴女だと云うことです」
「は、なに、云って」
やっと移ろった彼の表情が私を覗き込む
ほんの少し細められた目と、微笑む口もとだけで、こんなにも目を奪わてしまうのが悔しかった
「捕まるのはぼくではありません、貴女です」
莫迦みたいにうるさい心臓は、いつからこんなポンコツになったのだろう
しまった、やられた
気付いた時にはもう遅い、いつの間にか自由になった彼の右手には、私が持っていた筈の手錠の鍵
「まあ、そんな莫迦なところも可愛らしいですが」
代わりに手錠の片方は、フェンスに繋がっていた
拘束されたままの左手をいくら動かしても、フェンスが音を立てるだけで、手錠は外れない
ああ、鼠が、行ってしまう
「つ、次は、必ず貴方を___ 」
「次は本当に、貴女を捕らえます」
では、と羽織りを翻し、立ち去っていく彼を見送ることしか出来ない私
ここから動けないのは、手錠の所為か、それとも不覚にも今の囁きに胸が騒いだ所為か
一匹の猫が、鼠アレルギーになった瞬間だった
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桜月(プロフ) - 完結、おめでとうございます!!太宰さんの仕草や言動のひとつひとつにすごく胸がきゅっとなって、、めちゃめちゃキュンキュンしました!とても読んでいて楽しかったです!! (2021年10月11日 0時) (レス) @page28 id: cb743e60b6 (このIDを非表示/違反報告)
千桜里 - はじめまして!太宰さんの心情や行動にとてもドキドキしました!!本当に面白かったです! (2020年9月29日 12時) (レス) id: d647e09f50 (このIDを非表示/違反報告)
ヲタ娘(プロフ) - はじめまして。ヲタ娘です。すごく胸がキュゥ……として、フワフワっとしました! とっても面白いです! (2019年3月4日 20時) (レス) id: 737d873cb6 (このIDを非表示/違反報告)
桜紅葉 - 完結おめでとうございます!リクエストよろしければその後の話が読みたいです。お願いします。 (2018年3月7日 6時) (レス) id: 54de0e772b (このIDを非表示/違反報告)
月ノ輪(プロフ) - 完結おめでとうございます!すっごく可愛くて胸きゅんばっかしでした!他の作品も楽しみにしています♪ (2018年2月22日 13時) (レス) id: 3aab0973d9 (このIDを非表示/違反報告)
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