49話 ページ49
それは寒雨の降る夜だった。
夜の帳の下で寒々と降る冬の雨の匂いがした。しとしとと音がするような雫がアスファルトの地面に落ちていく。
そして、その雫の中に赤黒い異物が波紋を描いて混ざった。突如として現れたそれを辿れば指先から滴り落ちている。行き交う車のライトが照らす。
行き着いた先は綺麗な女の手だった。
血の女は雨に濡れていた。普通はそれを嫌がるものだが、気にする素振りはなかった。しっかりと前を向いていてその足取りに迷いは見えない。
膝丈の黒いキャミソールドレスの生地が体に張り付いている。この寒さだと言うのに薄着だった。
また、手のひらを伝うのは女の血ではない。
これは先程まで愛を誓っていたパートナーのものだ。
女はこれまでに何度か殺人を犯した。
1度目は実の母親だった。とうの昔に父親は蒸発していなかった。最初の殺しは些細なことで始まった喧嘩が原因だった。次第にお互いがどんどんヒートアップしていき、女が部屋にあった鈍器で母親を殴った。
すると、母親は電源が切れたように倒れ、うるさかった口は何も言わなくなった。始めはまだピクピクと痙攣していたが、頭部から漏れ出る血液が広がるにつれてそれも無くなった。
その時の女は16歳にも満たない少女だったため、法律によって守られた。やがて、更生するために施設に入れられその中で自分が犯した罪を反省した。到底償えることではないが、死ぬまで正しく生きようと心に誓った。
しかし、その誓いはいとも簡単に崩れる脆いものだった。
2度目は会社の上司だった。初めの殺しから数年が経ち、社会に復帰して働いていたが避けられなかった。女はそのときに、自分のそれはどうしようも出来ないことなのだと悟った。
女は衝動的に相手を殺してしまう質があった。歳を重ね精神的に成長してもそれだけは変わらない。持ち合わせの理性では抑えることが出来ずにいた。
それから女は自分の気持ちに素直になった。ストレスを感じるのは一瞬で、すぐに解消された。何かと追われる身となったが、自分らしく生きていて満足していた。
よって、パートナーを殺めることも初めてではなかった。
今回は相手の浮気が女をそうさせた。女にしてみれば、怒りで感情が高ぶるとついやってしまう悪い癖だった。いつものように相手を殺していつものように死体を隠した。単純作業のように慣れた手つきでひとりでやった。
朝のゴミ出しと何一つ変わらなかった。
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マニ。(プロフ) - 連載の方とかの新しい作品とか待っています!これからもボードの方でも仲良く、ファンとして遠くから応援してます!おかか様! (10月8日 9時) (レス) id: e240ea4865 (このIDを非表示/違反報告)
おかか(プロフ) - 千凪さん» ありがとうございます。嬉しいです! (2022年3月10日 14時) (レス) id: 9b9f4760f3 (このIDを非表示/違反報告)
千凪(プロフ) - すごく面白いです!続きがとても楽しみです (2022年3月9日 7時) (レス) id: 129c41ba6d (このIDを非表示/違反報告)
おかか(プロフ) - リトさん» コメントありがとうございます。感想を頂けて嬉しいです!頑張ります!更新は遅いですが今後も読んでもらえたら幸いです。 (2022年2月28日 21時) (レス) id: 9b9f4760f3 (このIDを非表示/違反報告)
リト - とても面白かったです!お話作るのが上手で尊敬してます。無理をせず更新頑張ってください。いつでも待ってます。 (2022年2月25日 2時) (レス) @page29 id: 2df230b8f3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おかか | 作成日時:2022年1月23日 14時