37話 ページ37
イルミはこれは単なるゲームだと分かっていたが、この家で常に完璧を求められていたことが身体に濃く染み付いていた。習慣が影響したのもあり、一見淡白そうに見えて意外と粘着気質なところがあった。
イルミの記憶からそれが忘れ去られることはなかった。
これがきっかけなのかは確かではないが、手にしていたダーツが針へと変わり自身の念能力に応用した。
瞳から続くダーツの羽と鋭く尖った先端。ボードの内枠の小さな赤が繋がった。そして、barのように誰かが奏でるジャズやクラシックが流れている訳でもないこの場に、タンッと軽快な音だけが3回続いた。薄暗い部屋のネオンライトに光るボードにダーツが刺さっていた。
真っ直ぐな線が途中で切れることはなく、狙った的はどれも外さない正確なショットだった。
今回の301からのゲームなどイルミにとっては息をするようなものであった。
Aはイルミがダーツを得意としていることも、念能力の詳細も知らなかった。お互い自由に仕事をしているので、これまでに干渉や対立したことはない。そのため、イルミが先行を取ってもなにも思わなかった。
第三者から提案されたゲームは蓋を開けてみると片方にだけ有利だった。Aだけが平等だと思っていた。
「彼女?何言ってんの」
Aがした質問にイルミは答えた。彼女という括りの女はいなかった。今までに、世間一般的に美人だと言われる整った顔の女や高価な装飾品を身につけ自分を着飾った女と仕事や取引をしたこともある。
しかし、そこらの有象無象の集まりに特別な感情など抱いたことはなかった。魅力的にも欲しいとも思わなかった。そこにあったのは利害の一致した一時の関係であり、それ以外と言えばただの他人だった。
そんなくだらない話をするAには、彼氏を飛び越えて将来を約束するであろう婚約者の候補が挙がっている。
イルミはAのまだあどけなさが残るその無邪気な笑顔が毒だった。
また、このことが知らされていない無知であるAに無性にムカついた。言ってやろうかとも思ったが、その存在を知ったAが離れていく可能性が捨てきれなかった。
そして、その考えにたどり着いた自分に疑問を持った。
何のために引き止めておきたいのかと。
それでも、完全に離れるわけではない、Aの横に線が一つ増えるだけだと無理やり押し込んだ。
イルミはこれまでの行動と思考に、
自分だけが必死になって馬鹿みたいだと思った。
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マニ。(プロフ) - 連載の方とかの新しい作品とか待っています!これからもボードの方でも仲良く、ファンとして遠くから応援してます!おかか様! (10月8日 9時) (レス) id: e240ea4865 (このIDを非表示/違反報告)
おかか(プロフ) - 千凪さん» ありがとうございます。嬉しいです! (2022年3月10日 14時) (レス) id: 9b9f4760f3 (このIDを非表示/違反報告)
千凪(プロフ) - すごく面白いです!続きがとても楽しみです (2022年3月9日 7時) (レス) id: 129c41ba6d (このIDを非表示/違反報告)
おかか(プロフ) - リトさん» コメントありがとうございます。感想を頂けて嬉しいです!頑張ります!更新は遅いですが今後も読んでもらえたら幸いです。 (2022年2月28日 21時) (レス) id: 9b9f4760f3 (このIDを非表示/違反報告)
リト - とても面白かったです!お話作るのが上手で尊敬してます。無理をせず更新頑張ってください。いつでも待ってます。 (2022年2月25日 2時) (レス) @page29 id: 2df230b8f3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おかか | 作成日時:2022年1月23日 14時