33話 ページ33
キキョウは採寸用のメジャーがイルミの肩の上を滑る様子を見ている。
採寸をしている初老の男はその長いメジャーで手際よく、そして丁寧に測定している。
この男はイルミ用のオーダーメイドのスーツを作るためにゾルディック家を訪れた。今回が初めてのことではなく、男が経営する洋服店はゼノの代から関係をもっている。
また、不思議と表に出ることはなく裏社会との繋がりが太い。当然ながらゾルディック家とは長い付き合いである。
イルミの成長に応じて、キキョウが新しいスーツをと依頼したのだった。
「オレもう15なんだけど」
イルミは不満げな表情をしてぶっきらぼうに言い放つ。
彼にしては滅多にないため息をつくほどだ。
心の内を話すと、わざわざ親に仕立てを手伝ってもらうことに対しての煩わしさを感じていた。それもイルミ個人に依頼がくる仕事も徐々に増えてきており、自分で何でも出来るという思いがあった。
男はそんなイルミにお構い無しに肩先から手首までの採寸をする。穏やかな雰囲気を醸し出しながら年相応に落ち着いていた。
「イルミちゃんの成長を感じるわ」
「その呼び方もやめて」
キキョウは息子の嫌味を気にもせず、ルージュの口元に笑みを浮かべていた。
オーダーメイドをするにあたって、生地の素材や色地も既に彼女が決めた。意見する間もなくイルミは型を取るだけに参加し、これから革靴も新調する予定だ。
また、キキョウはイルミの採寸を片目にアルバムをめくっていた。その中のほとんどが数年前のイルミとAである。
ワイシャツとクラシカルなハーフパンツにサスペンダーをつけた男の子が写っていた。今より少し幼い顔立ちをしたイルミが振り向きざまに撮られたものだった。
そして、キキョウは古い写真の中にいる彼の輪郭をそっと優しく指でなぞる。過去と今目の前にいる息子を見比べ、自分のすぐそばで育って成熟していく姿に愛おしさを感じていた。
どんなに大きくなっても、彼女の中ではいつまでも可愛い息子であることに変わりはなかった。
「そうよね。15歳になったのよねぇ。
そろそろAちゃんに見つけてあげなくちゃ」
「イルミちゃんの意見も聞きたいわ」
イルミはまた母親が言う自分の呼び方に引っかかったが、それよりもAが話題に上がったことの方に引っ張られた。この年齢で考えつつあり、自分の意見を必要とすることとは何だと思った。
母親の妙に張り切っている様子に胸騒ぎを感じる。
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マニ。(プロフ) - 連載の方とかの新しい作品とか待っています!これからもボードの方でも仲良く、ファンとして遠くから応援してます!おかか様! (10月8日 9時) (レス) id: e240ea4865 (このIDを非表示/違反報告)
おかか(プロフ) - 千凪さん» ありがとうございます。嬉しいです! (2022年3月10日 14時) (レス) id: 9b9f4760f3 (このIDを非表示/違反報告)
千凪(プロフ) - すごく面白いです!続きがとても楽しみです (2022年3月9日 7時) (レス) id: 129c41ba6d (このIDを非表示/違反報告)
おかか(プロフ) - リトさん» コメントありがとうございます。感想を頂けて嬉しいです!頑張ります!更新は遅いですが今後も読んでもらえたら幸いです。 (2022年2月28日 21時) (レス) id: 9b9f4760f3 (このIDを非表示/違反報告)
リト - とても面白かったです!お話作るのが上手で尊敬してます。無理をせず更新頑張ってください。いつでも待ってます。 (2022年2月25日 2時) (レス) @page29 id: 2df230b8f3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おかか | 作成日時:2022年1月23日 14時