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21話 ページ21

その後、Aはゴトーに抱きかかえられて屋敷へ入った。意識は明瞭だったが、触覚が正常に機能してないため大事をとってのことだった。
シルバに説明をすれば「ターゲットを始末したならそれでいい」とめずらしくお咎めも罰も無かった。



深更、イルミは自分の部屋を抜け出して廊下をひとり歩いていた。すでに屋敷のほとんどの照明は消されており、視界に入るのは暗闇だけだった。
そして目的の部屋の前に着くと、施錠されていない不用心な扉を開けて中に入った。

ここはAの寝室だ。奥の方で小さな灯りがぽつんとついていた。イルミはその灯りの下にいるこの部屋の主へと近づいていく。
消し忘れたのか、つけっぱなしになっているベッドサイドのランプがAの横顔をオレンジ色に照らす。ゴトーに打ってもらった解毒剤の副作用でよく眠っていた。

そして、迷いもなくAの傍へと腰を下ろし自身の重みでスプリングが沈んだ。


イルミはAの創を見たとき正直ぞっとした。
聞きたいことは山ほどあったが、痛みで苦しんでいないかが気になった。それでも何事もなく寝ていたのでイルミの心は落ち着いた。

Aをじっと眺める。
同じ双子なのにこうも見た目が違うのかと不思議に思ったこともあった。しかし、イルミにとってそれはもうどうでもいいことだった。
それよりも、自分の知らない内にAが変わっていくのが気になった。
訓練を早くに切り上げることが増えたこと。毒の研究をするようになったこと。この間の口紅のこと。何かしらの心情の変化があったに違いないと思っていた。


物心ついた時から隣にいるAのことは何でも知っているつもりだった。でも、それがだんだんと音を立てて崩れていくのを感じていた。どこにも浄化できないこの思いだけがどんどん積もっていく。

これ以上オレの中に侵食してくるのなら殺してしまおうか、あの蝶のように針で突き刺してずっと変わらない姿でと思うこともあった。でもそれがAの姿を見る度に鎮まるのがわかった。
生きている方がよっぽどいいと思えた。


イルミはAと一緒に過ごす日々で自分は生きていると感じていた。
他人を殺すためだけに産まれたわけではないのだと。普通の幸せとは何なのかが分からなくとも家族という繋がりが意味をなすのだと。
確かに自分の存在を証明してくれた。


「Aがオレを必要としてくれるならそれに応える」

「オレとおまえは同じだよ」


イルミは自分の部屋に戻って行った。

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マニ。(プロフ) - 連載の方とかの新しい作品とか待っています!これからもボードの方でも仲良く、ファンとして遠くから応援してます!おかか様! (10月8日 9時) (レス) id: e240ea4865 (このIDを非表示/違反報告)
おかか(プロフ) - 千凪さん» ありがとうございます。嬉しいです! (2022年3月10日 14時) (レス) id: 9b9f4760f3 (このIDを非表示/違反報告)
千凪(プロフ) - すごく面白いです!続きがとても楽しみです (2022年3月9日 7時) (レス) id: 129c41ba6d (このIDを非表示/違反報告)
おかか(プロフ) - リトさん» コメントありがとうございます。感想を頂けて嬉しいです!頑張ります!更新は遅いですが今後も読んでもらえたら幸いです。 (2022年2月28日 21時) (レス) id: 9b9f4760f3 (このIDを非表示/違反報告)
リト - とても面白かったです!お話作るのが上手で尊敬してます。無理をせず更新頑張ってください。いつでも待ってます。 (2022年2月25日 2時) (レス) @page29 id: 2df230b8f3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:おかか | 作成日時:2022年1月23日 14時

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