15話 ページ15
5年が経ち、イルミとAは10歳になった。
身体もそれなりに成長したが、身長は同じくらいだった。イルミは顔つきが少しだけ変わり大人っぽさが加わった。また、相変わらず無表情で淡々としていた。
Aはショートだった髪が鎖骨の辺りまで伸びた。その姿にもう少年っぽさは無く、可憐な少女だった。
ふたりとも個人の依頼はまだ受け付けられないが、単独での仕事を任せられるようになった。
また、5年の間で大きく変わったことがあった。
それはAが努力することを辞めたことだった。Aは殺しの技術においてイルミと並ぶことを諦めた。これまでに、生まれつきの才能には力及ば無いことを何度もすぐそばで実感した。いずれは訪れるしょうがないことだった。
ある日の仕事終わりだった。自室に帰ってきたAは心身ともに疲労していた。ずっと下を向いて歩いていた。そして突然、Aの中にあった糸がプツッと切れた。
その張り詰めていた糸が切れた瞬間、涙がぽろぽろと出てきた。胸を押さえて口を噤み嗚咽した。立っていられずに座り込んだ。
上手く息が出来なかった。酸素を取り込もうとして開けた口から堪えきれなかった声が漏れた。
何故か分からなかったが、涙は止まることを知らずに溢れ出てきた。
ひとりで、たったひとりで泣いた。
そして、いつの間にか寝ていた。そのまま冷たく硬い床に体を預けていた。髪の毛は乱れ、節々が痛くて瞼が腫れぼったかった。顔には涙や鼻水の跡が乾いて残っていた。その時のAは決して綺麗とはいえなかった。
しかし、その美しくない姿とは違って心はとても澄み渡っていた。それまで自分で自分を縛り付けていた足枷が外れて、軽くなったような気がした。手足を広げて深呼吸をした。肺にたっぷり空気を入れて吐き出した。
Aが囚われていたものは全て無くなっていた。
そして、Aはこれまでキキョウがやってきたものを受け継いだ。この家で生きていく為の術は自分にはこれしかないと思ったからだ。誰からの指示も追い詰められることもない毒の研究は楽だった。
マウスに毒薬を投与してからしばらく経った。同じゲージにいた他のマウスを怖がっているようだった。近づいてきた相手を避けるように逃げ回った。
そして、自分でゲージに何度も頭から体を打ち付け絶命した。これは幻覚剤だった。シロシビンという毒が脳に作用し、幻覚を引き起こしたのだった。
「おつかれさま」
Aは淡々とこの結果を記録した。
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マニ。(プロフ) - 連載の方とかの新しい作品とか待っています!これからもボードの方でも仲良く、ファンとして遠くから応援してます!おかか様! (10月8日 9時) (レス) id: e240ea4865 (このIDを非表示/違反報告)
おかか(プロフ) - 千凪さん» ありがとうございます。嬉しいです! (2022年3月10日 14時) (レス) id: 9b9f4760f3 (このIDを非表示/違反報告)
千凪(プロフ) - すごく面白いです!続きがとても楽しみです (2022年3月9日 7時) (レス) id: 129c41ba6d (このIDを非表示/違反報告)
おかか(プロフ) - リトさん» コメントありがとうございます。感想を頂けて嬉しいです!頑張ります!更新は遅いですが今後も読んでもらえたら幸いです。 (2022年2月28日 21時) (レス) id: 9b9f4760f3 (このIDを非表示/違反報告)
リト - とても面白かったです!お話作るのが上手で尊敬してます。無理をせず更新頑張ってください。いつでも待ってます。 (2022年2月25日 2時) (レス) @page29 id: 2df230b8f3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おかか | 作成日時:2022年1月23日 14時