探しびと ページ48
「今日はどのようなご依頼で?」
応対室の長椅子に依頼人の女性を座らせ、ナオミは向かいの椅子に腰掛けた。ナオミは手代の学生だが、此処で話を聞き、探偵社の要たる調査員に内容を伝えるくらいなら出来る。
他の社員は忙しそうにしていた為、丁度社に入ったナオミが応対する事にしたのだ。鞄も肩から下ろせぬまま応対したもので、今のナオミの足元には学生鞄がちょこんと置かれている。
依頼人は二十代の女だ。整った顔立ちに柔和な笑みを浮かべている。
「……人を、探して居るんです」
「探し人ですね。失礼ですが、警察の方には?」
探偵社の本領は切った張ったの荒事である。只の人探しならば警察を頼った方が良いのではないか、という言外のナオミの問いかけを解し、女は困ったように首を振った。
「相手は一寸ワケありでして……話だけでも聞いてくれませんか?」
「判りました。ではご事情を──」
こっこっ、とノック音が響いた。音は扉の随分低い位置から聞こえてきたので、恐らく足で叩いたのだろう。ナオミは思わず片手で顔を覆った。ナオミはお茶汲みを子供に頼んでいたのだ。
「私が開けましょう」
ナオミが代わる間もなく、女は颯爽と立ち上がって扉に歩み寄った。開けた扉の先、子供は無表情で女を見上げている。誰だろう、と考えている顔だ。
「すみません! どうぞお座りくださいませ」
ナオミが慌てて立ち上がる。子供は自身の役目を思い出し、慎重にティーカップが乗った盆を机まで運んだ。
女はそんな子供の様子を笑顔で見守っている。喜色に溢れたその笑みに妙なものを感じ、ナオミは子供を下がらせようとした。
「とても大事な子なのかもしれないんです。丁度このくらい小さくて……」
何か様子が可笑しい。女は子供の肩を抱き、そっと自分の下に引き寄せた。肩を掴む力が存外に強く、子供はその手を払おうした。
「──その人から離れて!」
劈くような鏡花の声色に、思わず子供に背を向けたナオミの背後で、ぽんっ、と軽い音が響いた。
「そう! 僕が探していたのはァ──この子でした!」
手弱女は一瞬で道化のような格好をした男に姿を変えていた。男は片腕に子供を抱いたまま、高らかに笑って外套(マント)を翻した。
「Aちゃん!」
ぽんっ、と再び響いた音の直後、部屋は桃色の煙幕に包まれる。煙が引いた後、その場に居たのは鏡花とナオミのみ。男は跡形もなく姿を消していた。──子供と共に。
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ロト - こめ(元団子)さん» お久しぶりです!最近わりと多忙でした…少し時間が空いてきたので見てみようと思えば結構更新されてて嬉しかったです!癒されました〜! (2019年8月25日 23時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - ロトさん» ロトさん! お久しぶりですね! そうです娘主は奔放な子供なので自由に遊び回っては国木田さんに叱られ 最終的には追いかけ回されますw (2019年8月25日 22時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
ロト - 近所迷惑(社員寮)……つまり、国木田さんの胃痛が増すんですね分かります。 (2019年8月25日 1時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 来霧さん» やったー!ありがとうございます これからもお付き合いください! (2019年8月19日 2時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
来霧(プロフ) - 続きが!きになりすぎます!!応援していますー!頑張ってください! (2019年8月17日 0時) (レス) id: cc1c1fbc8a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こめ | 作成日時:2019年6月22日 21時