認知したい！【文スト】

ノイローゼになりそう(国木田さんが) ページ41

夢遊病──無意識の状態で起きだし、歩いたり何かをした後に再び就眠するが、その間の出来事を記憶していない状態を指す。


「あの子くらいの年頃にはよくある話だよ。成長と共に自然に症状は消失する。心配なら戸締りを強固にして、一応寝入るまでは見守っておきな」

「分かりました。有難うございます。……あの、原因とかはあるんですか？」


無意識に夜中に出歩いていたと云う子供の診察を与謝野女医に頼んだ敦は、診察後、与謝野にそう問うた。与謝野の専門は外科である。人の精神については管轄外だが、一般人よりは知識を持っている事には変わりない。


「原因、ねェ……」与謝野は首を捻り、ぽつりと答えた。


「強いストレスとか」

「ストレス」


思わず鸚鵡返しをして、敦は廊下の方を見た。台車をキックボードの如く乗りこなし廊下を疾走する子供がちょうど医務室前を通り過ぎた処であった。

「待てと云うに！ 危ないだろう！ おい！！」と子供を叱る国木田の声と足音が聞こえてくる。

より強い精神的疲労を抱えているのは彼の方ではないだろうか、と敦には思えてならない。


「……体力が有り余ってるようだから、公園か広場にでも放逐してやれば良いんじゃないかい」


与謝野の提案に力無く頷き、敦は子供を捕まえるべく廊下を駆け出した。



□□□



「疲れてるのか国木田さん。チョコあげる」

「糖分よりもお前が大人しくしてくれた方が俺は助かるんだがな」


疲労が溜まっていても仕事に支障は出さないのが国木田独歩が次期社長である由縁であるとか。
懐に菓子を突っ込んでこようとする手を制し、国木田は子供の瞳を見つめた。


「A、一人で外出したいとは思わんか」

「別に」

「何とな、外は室内より広い。好きなだけ走り回れるぞ」

「！ 許可ほしい」

「よし」


国木田は仏のような心持ちで頷いた。怜悧そうな見目をしている割に、子供はさほどものを考えていないという事が最近国木田にも分かってきた。まあ、十歳前後の子どもなぞこんなものだ。



□□□



夜。鏡花は子供を簀巻きにして自身の敷布団の上に転がした。隣に寝そべり、薄手の毛布を胸まで引っ張り上げて被る。


「御休みなさい」

「お、御休み……？」


敦は照明の切換機に指をかけ、このまま就寝して良いものかと考えた。夢遊を防ぐ為とは云え……と敦は子供の方を見遣った。


「あつい……」

「ほら暑いって鏡花ちゃん！ もう一寸彼女の人権を尊重してあげよう！？」

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