夢をみた零時 ページ34
常闇の中で蝉が鳴いていた。襟足を汗が伝い、喘ぐ様な呼吸を繰り返していた芥川は自身の気分がどうしようもなく高揚している事に気が付く。
負った傷の再生を待たずに芥川に肉薄する白虎。異能で展開した障壁で迫る牙を防ぎ、虎のはるか頭上から黒衣の刃を打ち込む。激痛に悶えるような獣の咆哮がびりびりと響き、芥川は愉悦に口端を歪ませた。
暴力装置、と誰かに謗られた。
好きに言えばいい。勝手に怯えればいい。知らないだろう、汚泥を這いずり石を投げられる気持ちも、毒煙に侵され痛む肺が生む苦しみも。そこから引き揚げてくれた者に捨てられたと理解した瞬間だって。
血飛沫を撒き散らして倒れ付した虎は砂となって消え、入れ替わりのようにその場所には一人の少女が現れた。白髪の少女は芥川によく似た無表情を傾け、芥川に問う。
『生きる意味って、そんなに重要?』
──ああ。迚も。
『なぜ?』
──前に進む為。
『同じところに留まっていてはいけないの?』
芥川は頷いた。それから彼女の喋り方が自分の知っているものと少し違うのに気付いたが、まあ夢なのだからこんなものかと思い、少女の頬にも飛んでしまった血液を拭おうと手を伸ばすと、少女は芥川に柔らかい笑みを向けた。
『私のこと大事?』
──大事だ。愛すると決めた故。
ふと芥川はこの少女の齢が知りたくなった。しかしこれは芥川の夢であるので芥川の知らない情報は得られないのだ。現にいま、触れた頬、重ねられた娘の手に体温はない。
甘えるような猫の鳴き声が遠くから聞こえてきたとき、芥川は夕暮れに沈む公園に立っていた。ブランコを漕いで遊んでいた見知らぬ男児はAに姿を変え、彼女は芥川と目が合うと、
『嘘つき』
徐々に陽射しが強くなる。地面も木々も遊具も白く発光し、大音量の蝉時雨が芥川をのみこんだ。
そこで、目が覚めた。
芥川は冷え切った体を起こし、寝台から降りて部屋の冷房を切った。元来芥川の睡眠時間は夜中の三時から五時までである。今日は早めに就寝した事が仇になり、中途半端な時間に起床してしまった。
「厭な夢だ……」
窓を開けると生温い空気が流れ込んできて、冷風に当たりっぱなしになっていた体が表面から温まってゆく心地がした。芥川は寝間着にしている部屋着の上から外套を羽織り、別室で眠る妹を起こさぬように廊下を歩いた。
どうせ眠れる事もなし。散歩にでも出掛けようと思ったのだ。
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ロト - こめ(元団子)さん» お久しぶりです!最近わりと多忙でした…少し時間が空いてきたので見てみようと思えば結構更新されてて嬉しかったです!癒されました〜! (2019年8月25日 23時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - ロトさん» ロトさん! お久しぶりですね! そうです娘主は奔放な子供なので自由に遊び回っては国木田さんに叱られ 最終的には追いかけ回されますw (2019年8月25日 22時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
ロト - 近所迷惑(社員寮)……つまり、国木田さんの胃痛が増すんですね分かります。 (2019年8月25日 1時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 来霧さん» やったー!ありがとうございます これからもお付き合いください! (2019年8月19日 2時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
来霧(プロフ) - 続きが!きになりすぎます!!応援していますー!頑張ってください! (2019年8月17日 0時) (レス) id: cc1c1fbc8a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こめ | 作成日時:2019年6月22日 21時