犬の心ぞう ページ26
「鏡花か」
芥川は相手の正体に気付くと、指に摘んでいた小型の発信機を側の女に投げて寄越した。女ことナオミは「あら」とだけ言って難なくそれを受け取った。探偵社の女性社員三人を前にして、芥川の敵意は消えていた。
「この童が�犁△蠅燭き瓩髪召辰晋痢�届けに来た」
芥川は己の背後に隠れるように立っていた子供の背をぽんと叩いた。それに驚き、鏡花は素早く抜き身の刃を鞘に仕舞う。子供は決まり悪そうに外套を畳んで持っていた。
「何を買うべきか色々考えてくれていたのに、逃げ出してすまなかった」
「善いンだよ。妾達もアンタを玩具に……色々押し付けて悪かったね」
「やっぱり玩具じゃないか！ やっぱり！」
子供は悲痛な声で叫びながら芥川の外套を捲って中に潜り込んだ。芥川の異能の要となる黒外套の内部に入り込まれる等、無防備に心臓を晒すにも近い行為だ。ところが芥川は落ち着かなさそうに口元を歪めるのみで、子供を無理やり引き剥がしはしなかった。
与謝野が意外そうに目を丸くする。今はこの場に居ない敦ほど彼と関わりがある訳ではないが、冷酷無残な男だとは認識していたので。
□□□
人も疎らな帰りの電車にて、手提げの紙袋を膝に抱えた子供は、若干はしゃいだ声で隣に座る鏡花に話しかけていた。
「芥川さんとその妹さんと、おむらいすを食べたんだ」
「そう」
「妹さんが注文してくれてな、芥川さんは大根おろしで、私は茶色の液体がかかって……えーと……で、デ……？」
「……デミグラスソース？」
「それだ。でみ……何とかだ。美味しかった。肉まんと同じくらい」
「クレープも美味しい」
「くれーぷ？」
「甘い食べ物」
「食べたい」
「今日はもう遅い」
「なら明日だ」
「うん」
明日。鏡花はそう呟いて、目尻をほんのり喜色に染めた。
与謝野は嬉しそうな少女の貌を横目で見てフッと微笑んだ。医者である彼女は鏡花の相談に乗った事が幾度かあった。
曰く、人を殺めた記憶を今となって夢に見る。今が幸せであるが故、それは顕著に、鮮明に蘇るそうだ。
元暗殺者の少女の夜が、巡る明日に心を弾ませ、安らかに眠れるものであれば良いと考えた。
子供は車両の窓に手をついて外の夕日を眺めていた。窓から見える住宅街は、落ちかけの太陽に今にも呑み込まれてしまいそうだ。
次々と視界を流れてゆくひとつひとつの家に、別の人間が住み、個々の生活を営んでいるのだ。子供はその事実をふと思い知った。
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ロト - こめ(元団子)さん» お久しぶりです！最近わりと多忙でした…少し時間が空いてきたので見てみようと思えば結構更新されてて嬉しかったです！癒されました〜！ (2019年8月25日 23時) (
レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - ロトさん» ロトさん！ お久しぶりですね！ そうです娘主は奔放な子供なので自由に遊び回っては国木田さんに叱られ 最終的には追いかけ回されますw (2019年8月25日 22時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
ロト - 近所迷惑(社員寮)……つまり、国木田さんの胃痛が増すんですね分かります。 (2019年8月25日 1時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 来霧さん» やったー！ありがとうございます これからもお付き合いください！ (2019年8月19日 2時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
来霧(プロフ) - 続きが！きになりすぎます！！応援していますー！頑張ってください！ (2019年8月17日 0時) (レス) id: cc1c1fbc8a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：こめ | 作成日時：2019年6月22日 21時
