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犬です ページ3

「ただ今戻りましたー……何してるンです?」


浮気調査の依頼から戻った谷崎は、互いに険しい顔で口論している国木田と鏡花を見て首を傾げた。鏡花の方は銀鼠色の外套を被った人影を守るように立っている。

他に注意を払う余裕が無いのか、二人は谷崎に目もくれない。よって谷崎の視線は専らその外套の人物に注がれる事となる。

背丈や体格からして、それが子供だろうと云う事は容易に察しがついた。
妹が絡まぬ限り、谷崎は基本的に善の人である。何処か所在なさげに佇む子供を放っておくのも気が引け、「ねえ君…」と声を掛けた。


「君、花は好き?」


一拍置いて、子供は首を横に振った。


「なら動物は?」

「……犬が好きだ。黒いやつ」

「ふんふん」


成程なぁ。谷崎は態とらしく頷いた。室内だというのに、彼の周囲には細やかな雪が振り始める。それに気付き辺りをきょろきょろと見回す子供の足元で、甲高い鳴き声が上がった。

真っ黒でふわふわとした毛並みの子犬。谷崎の異能でスクリーンに変わった背景に上書きされたものだ。異能で作られた虚像の犬は子供の前にちょんと座り、愛らしい瞳で子供を見つめている。


「こんな犬はどうかな? 好き?」


大きな帽巾で覆われたままの頭が僅かに上下した。黒い毛玉のような子犬が足元に戯れ付く映像を空間に投影しながら、谷崎は子供と同一の目線になろうと片膝を立てて屈んだ。

帽巾の下から、肩の高さで切り揃えられた白髪が見えた。子供の顔も。


「へ」


映像が途絶える。柔らかい笑みを浮かべたまま硬直していた谷崎は、焦った様子の鏡花が自分と子供の間に割って入った事で我に返った。


「……見た?」


静かな声で鏡花が問う。それはもうばっちり見てしまった谷崎は、ここで是と答えたら記憶を消されるくらいの事はされそうだなと他人事のように考えた。人は対処しきれない物事に直面すると自己乖離を起こす。

谷崎の沈黙を肯定と受け取った鏡花は、少し逡巡する素振りを見せた後、やはりこれしか無いのかと諦めた表情で刀を振りかぶった。


「落ち着いて鏡花ちゃん!? 先ずは話し合お、」

「大丈夫。直ぐに与謝野女医に診せる」


何も大丈夫じゃない。谷崎の目と鼻の先で刃の切っ先は濡れたように光っている。冷汗が一筋谷崎の顎を伝った。


「その子を軍警に突き出そうとかそンな事は考えてないから! 大丈夫だから!」


妹のナオミを残して死ねない。谷崎が必死で叫んだ甲斐あり、鏡花は刀を白鞘に収めた。

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ロト - こめ(元団子)さん» お久しぶりです!最近わりと多忙でした…少し時間が空いてきたので見てみようと思えば結構更新されてて嬉しかったです!癒されました〜! (2019年8月25日 23時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - ロトさん» ロトさん! お久しぶりですね! そうです娘主は奔放な子供なので自由に遊び回っては国木田さんに叱られ 最終的には追いかけ回されますw (2019年8月25日 22時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
ロト - 近所迷惑(社員寮)……つまり、国木田さんの胃痛が増すんですね分かります。 (2019年8月25日 1時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 来霧さん» やったー!ありがとうございます これからもお付き合いください! (2019年8月19日 2時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
来霧(プロフ) - 続きが!きになりすぎます!!応援していますー!頑張ってください! (2019年8月17日 0時) (レス) id: cc1c1fbc8a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:こめ | 作成日時:2019年6月22日 21時

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