人とのきょり感 0か100 ページ20
子供はよく国木田に背負われたがる。
「高い。高いぞ国木田さん」
「下りんか小娘」
国木田は背中にしがみつく子供を引き剥がそうと身を捩り、子供の腕なり足なりを掴もうとした。しかし子供はするすると国木田の手から逃げ回り、とうとう肩を跨いだ。不本意な肩車である。
「天井に触れられたぞ! ほら、見てみろ敦」
「はは……すごいね……国木田さん般若みたいな顔してるけど」
「大きく上体を反らすな! 落ちたらどうする!」
「そっちですか!?」
足首を確りと掴まれたのを良い事に、子供は全身から力を抜き切って背後に体を倒した。国木田の背中で逆さまの子供の体が不安定に揺れる。
ここで手を離してしまったら子供は頭から床に激突してしまう。国木田は非力な子供に、実に簡単に動きを封じられてしまったのである。
「……予定では俺は今頃書類の整理に取り掛かっている筈だったのだぞ……」
「人生思い通りにいかない事だらけだ」
「お前が云うな」
上下逆さになった子供の視界の中で、閉じられていた扉の把手が回った。
「……!」
「おっ、すごい腹筋と跳躍力」
子供は扉を開けて入ってきた人物を見るなり素早く体を起こし、国木田の肩を足場にして大きく飛んだ。机にだらしなく突っ伏していた太宰がそれを見てヒュウと口笛を吹く。子供は手近な谷崎の机の下に身を隠した。
「あッ、あの、ちょっとAちゃん」
「こら、Aちゃん! 兄様の脚の間に潜り込んでいいのはナオミだけですのよ!」
「ナオミやめて!」
当初こそ鏡花と時々敦以外には口を開こうともしなかった子供は、今や社の殆どの人間に慣れ、時々社員に相手をされながらも好きに時間を過ごしている。しかし、ただ一人、子供が接触を避ける人物がいる。
それが。
「人見知りされてますねぇ。社長」
「……」
太宰は頭だけを動かし、半端に扉を開けたまま立ち尽くす福沢を慇懃に見遣った。鏡花が慰めるように福沢の隣に寄り添い立つ。だが、それは勝者の余裕故の行為だと福沢は知っていた。
厳しい顔の下で福沢は過去の行いを回想する。何だ。一体自分の何が悪いというのか。乱歩が菓子を強奪した詫びが煮干なのが気に喰わなかったのだろうか。
ふと、鏡花が福沢の羽織の袖を引いた。
「仲を取り持つくらいなら、する」
『孫娘』で通せるほど年下の少女に情けをかけられている。福沢はたっぷりの間の後、普段より幾許か覇気のない声で「頼む」と呟いた。
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ロト - こめ(元団子)さん» お久しぶりです!最近わりと多忙でした…少し時間が空いてきたので見てみようと思えば結構更新されてて嬉しかったです!癒されました〜! (2019年8月25日 23時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - ロトさん» ロトさん! お久しぶりですね! そうです娘主は奔放な子供なので自由に遊び回っては国木田さんに叱られ 最終的には追いかけ回されますw (2019年8月25日 22時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
ロト - 近所迷惑(社員寮)……つまり、国木田さんの胃痛が増すんですね分かります。 (2019年8月25日 1時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 来霧さん» やったー!ありがとうございます これからもお付き合いください! (2019年8月19日 2時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
来霧(プロフ) - 続きが!きになりすぎます!!応援していますー!頑張ってください! (2019年8月17日 0時) (レス) id: cc1c1fbc8a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こめ | 作成日時:2019年6月22日 21時