4、彼女の鍵 ページ4
頬を叩いても耳元で名前を呼んでも、起きやしない。
夜も遅いこの時間、マンションの通路で騒ぐ訳にも…女性に手荒な真似をする訳にもいかず。
起こすことは諦めて…彼女が手から滑り落とした " 鍵 " を拾い、ひとまず僕の部屋に運ぶことに決めた。
「…軽いな」
Aを抱き上げると、その軽さに拍子抜けした。身長の低い彼女がひどく華奢なことは、見た目から分かっていたが。
ちゃんと食べているのかと…ほんの少しだけ。
心配になった。
布団に優しく横たえると、彼女は深い眠りについたらしい。
「…はぁ」
僕の手元に残った彼女の鍵を見つめて、ため息をつく。
これは…恐らく。
" 意図的に " 僕の部屋へ入ろうとした訳では無いんだろう。
先程の奇怪な行動を思い返しながら、目の前で寝息を立てる彼女が、" 本当に " 眠っているか慎重に確認をとって。
…僕はひとり、玄関へと向かった。
建物に侵入したり、パソコンからデータを抜き取ったり、盗聴したり。
そう言った " 犯罪行為 " に対して、それほど罪悪感を感じなくなったのは……ゼロの違法捜査と、あの犯罪組織で探り屋をやっているせいだと思う。
…それでも。
「……開いた」
僕の隣の…明かりが付いていない、部屋。
絢瀬Aが持っていた鍵を使ってみると、やはり簡単に開いた。
その扉を、ほんの少しだけ開く時。隙間から身体を滑り込ませる時…いつもなら、何も感じないのに。
これ程までに申し訳ない気持ちになるのは、彼女がただの…純粋な " 一般人 " だと。僕自身が信じて疑わないからだろう。
一通り彼女の部屋を探ったものの、組織絡みの女性ではないと確信した。
分かってはいたが、職場がポアロの近くであるだけの一般人だ。
色々と探ったことがバレないよう、細心の注意を払って。彼女の部屋を後にした。
「Aさん」
「…ん、…」
自分の部屋に戻り、彼女の様子を確かめる。
僕がここに居ない間も、相変わらず眠っていたらしい彼女は、名前を呼ぶとほんの少しだけ反応を示した。
…どうせ、無意識下なんだろうが。
思った通り、その瞼が開くことは無く。再び小さな寝息が聞こえ始める。
「酔っ払って部屋を間違える、なんて…危険過ぎるでしょう?」
「…」
「僕が警察官で良かったですね」
彼女の頬を撫でながら呟いたその言葉に、自分で驚く。
何故、僕はこんな事言って…。万が一、彼女に聞かれていたらどうする?
彼女が寝ているからって、油断しすぎだ。
697人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
真実(プロフ) - reさん» どの小説も読みやすかったです。一目惚れのお話は読んでいてこんな一目惚れの仕方もあるのかと感心しました!リクエストの件、ご無理はなさらずに形に出来そうであればお願いします!! (2021年8月6日 13時) (レス) id: 19057a7d80 (このIDを非表示/違反報告)
re(プロフ) - 真実さん» ぇええ?!全部読んで下さったのですか…?!(;-;)貴重なお時間を私の小説に割いて頂いて…う、嬉しすぎます…!本当に幸せです、ありがとうございます(;-;)一目惚れのお話も読んで頂けて幸せです…!リクエストのお話もいずれ形にできるよう、頑張りますね!^^ (2021年8月6日 7時) (レス) id: 963c697df1 (このIDを非表示/違反報告)
真実(プロフ) - reさん» 読んでいてお互いの気持ちを考えているのが分かるのでキュン死するかと思っています(因みにreさんの小説は全部読破しております/リクエストした際に言っていた降谷さんの一目惚れの小説も読みました) (2021年8月5日 21時) (レス) id: 19057a7d80 (このIDを非表示/違反報告)
re(プロフ) - 真実さん» 真実さん、コメントありがとうございます…!2人の、お互いを大切に想う気持ちを伝えられているのなら、私はとても幸せです…(;-;)とても嬉しいお言葉、いつもありがとうございます…!2人の幸せのために、続編も引き続き頑張りますね!^^ (2021年8月5日 19時) (レス) id: 963c697df1 (このIDを非表示/違反報告)
真実(プロフ) - 夢主には夢主の苦悩、降谷さんには降谷さんの苦悩と言うものがreさんの小説から痛いほど伝わってきますね。けど、それはお互いを大切に思っての事だと思うと切ない気持ちになります。続編も楽しみにしてます!! (2021年8月5日 13時) (レス) id: 19057a7d80 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:re | 作成日時:2021年7月25日 15時