君を振り回したい僕【降谷零】

28、デート ページ28

どうやら、Aの水族館好きは相当らしい。

『あむぴあむぴ！』と興奮気味に、声を押し殺しつつ僕の名前を呼んでは…目の前の大きな水槽に目を輝かせる。

しっかりと握りしめたパンフレットへ偶に目を落とし、僕を引っ張り回すその姿は紛れもなく。

子供…

いや、せめて " 無邪気 " と言った方が聞こえがいいか。
水族館でこれだと、テーマパークになんか連れて行ったらどうなるんだか。


｢ぺっ！！ペンギンだ！！？｣
｢ペンギンですね｣

｢可愛いね！！ね？！｣
｢はい、可愛いね。｣

……子供、だな。
完全に保護者の気分だ。


最初こそ、人の居る場所で手を繋ぐ事に炎上の危機を感じて怯えていたが。

チケットを購入して館内に足を踏み入れた瞬間、Aの頭は『水族館』の事でいっぱいになったようだ。
今も手を繋ぎっぱなしなのに、気にも留めていない様子。

好きだと言っていただけあって、 しばらくペンギンに釘付けになっていた筈の彼女が。


不意に真顔になって、黙った。


｢…Aさん？｣

｢……あ、れれ？あむぴ、もしかして水族館興味ない？｣

｢ん？何故？…僕、そんなに興味無さそうに見えました？｣

つい数秒前まで、あんなに騒いでいたのに。
キラキラと目を輝かせていた筈のAは今、僕を見上げながら心配そうに眉を下げていて。


僕の寝室にいる時のように……その頬を撫でて、顎を持ち上げて。

簡単にキスをしたくなる。


……君のそんな顔を見るために連れてきた訳じゃないよ。



｢誘ったのは僕でしょう？…すごく楽しいですよ、今。｣

そう彼女に告げると、安心したように『……よがっだ』なんて呟いて涙目になっていた。

僕が強引に連れてきたんだから、Aが気にすることはないのに。


彼女にぐっと近づいて…わざと耳元で囁く。

『…Aさんが " 子 供 み た い に " はしゃぐ姿を見られて、すごく楽しいです』。

彼女は思った通り、ピシリと固まって顔面蒼白になるから、つい笑いそうになった。


……普通は顔を赤くする所だと思うんだけどな。


｢ちょ…、っ！顔が、ち、近いよ…炎上しちゃうから…ｯ！距離を保って！？｣

｢はい？ここへ着いてからずっと手を繋いでる時点で、もう今更でしょう？｣

｢ｱｯ……ほんとだ…じゃあ、今すぐ離してください！！｣

｢嫌です｣
｢ｴｯ！？なんで？！｣


今日は… " デート " でしょう？


絶対、離してやらない。

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