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拾肆 隠し事 ページ15

炎柱、煉獄 杏寿郎。
彼には、手紙をやり取りする仲の女性がいる。街でも有名な美人らしいが、同時に鍔職人でもある。
人よりも気配に敏感な彼が、彼女の想いに気付くのに、そう時間はかからなかった。だからこそ、彼は彼女の反応を楽しんでいた。
名前呼びを要求してみたり、必要以上にくっついてみたり……この確信犯、と弟に咎められたのは、つい最近のことだ。
だがその日、彼女に違和感を覚えた。
治まったと聞いていた咳が再発し、お世辞にも綺麗とは言いがたい、青白い肌。
呼吸は乱れ、言葉を発するも、すぐに咳き込んでしまい、見ていて痛々しい。
なによりも、この日は会って1度も、目が合っていない(焦点が合っていないのは問題ない)。

「……何かあったのか?」

なんでもない、と両手を振る彼女は、あからさまに動揺し、目を泳がせている。
一体何があったの言うのか。
杏寿郎には言えない悩みなのかもしれないが、それが杏寿郎の気に障った。

「俺には言えないことか?」

悩みなど、あって当然だ。だが、もしもそれが原因で、Aの体調が悪化しているならば、取り除いてはやれなくとも、話を聞くくらいはしてやりたい。
杏寿郎の熱を帯びた視線に、Aはゆっくりと口を開いた。
Aが杏寿郎に隠していたのは、婚約の話だった。話し終えた後に、Aは不安そうに杏寿郎の顔を伺う。

「……そうか」

それ以外に、どんな言葉がでようか。
互いに思いを伝えあった(杏寿郎は最初から知っていた)ばかりだというのに、翌日には、会ったこともない男と婚約するなど、タチの悪い神様のイタズラだ。

「他に、何か隠してないか?」

だが、杏寿郎は騙されない。Aには、まだ杏寿郎には言っていないことがあると。
先に婚約の話をしたのは、その話(・・・)を隠そうとしたから。

「敵いませんね、杏寿郎には」

諦めたように微笑んだAを、秋らしい、肌寒い風が撫でる。
婚約は破棄されました、と静かに呟いたAは、どこか清々しそうに目を細めた。
婚約は破棄されたならば、わざわざ婚約をしたなどと言わなければ良かっただけだろう。
つまりどういうことかと言うと、Aが本当に隠そうとしたのは、婚約破棄をされた理由だ。
咳き込みながら、Aは困ったように笑い、咳が収まったと同時に、続けた。
哀しそうに、苦しそうに、今にも泣き出してしまいそうなほど、瞳を揺らして。

「余命宣告を……受けました」

拾伍 空虚→←拾参 波



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squid(プロフ) - 愛羅さん» 返信が遅れてすみません!感動系は少々苦手なのですが、そのように思っていただけたなら幸いです!完読ありがとうございます! (2019年7月1日 6時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
愛羅(プロフ) - 感動しました!涙が止まりません…( ; ; ) (2019年7月1日 0時) (レス) id: 83407bc1eb (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - ぶるこ。さん» コメントありがとうございます!素敵な夢だなんてとんでもないです。完読していただきありがとうございます。 (2019年6月17日 7時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
ぶるこ。 - 涙ぼろぼろです。素敵な夢をありがとうございます…。 (2019年6月17日 2時) (レス) id: 48aba5c9ee (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - キノさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけて嬉しいです。 (2019年6月14日 15時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:squid | 作成日時:2019年5月11日 17時

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