英雄なんて呼ぶんじゃねぇ ページ21
昔は毎日泣いてばかりいた。意味もわからず溢れて、誰にも見られないまま落ちていく涙は朝から晩まで流しても枯れない。涙が枯れるなんて、あれは悲しいときだけ泣いてる奴が泣き止んだときの台詞だ。
大人になってからも泣きたいことは何度もあった。でも、泣かなくなったのは支えができたから。こんな私を抱き締めてくれた彼がいたからだ。
彼は私の人生で初めて、拳銃を握っていない私を見てくれた。今まで彼以外誰もできなかったんだ。ヤクザも、エドも、クロロも、私も。
力に酔っていた私に、彼はそれ以外のことを見付けさせてくれた。
キルアとか、ゴン。クラピカにレオリオ。あとついでにトンパとハンゾー。あいつらに優しくできたのは、私が最初から優しさを持ち合わせてたからではない。本当のところ、あれはただの真似だ。彼が私にしてくれたように、私も人には優しくしようって思えた。そうすれば大人に、彼にまた一歩近づけるって、そういう算段。うわ、無意識ってこえー
今思うとそんな小賢しい私だったけど、多分誰かを楽しませることくらいはできたと思う。キルアのふとしたときの無邪気な表情、ゴンのフルーツを頬張る顔、クラピカの楽しいと言ってくれた笑顔、悲しい顔も忘れない。
“もう一人の私”なんて例えをしたけれど、それは紛れもない私だった。何もかも奪ったのも、それから与えたのも一人のAっていう人間。やっぱりクラピカには、最初から最後まで悪いことをしてしまったのかもしれないなぁ。ごめんねって言えればいいんだけど絶対言えないし言わない。彼の大事な仲間は戦って死んだんだ。私のために死んだんじゃない。
でもそれを他でもない私の口から言うのはあまりにも辛すぎるから、優しいのは“もう一人の私”ってことにしておくんだ。正論は必ずしも人を救うわけじゃない。だからクラピカの好きなようにするのが一番いい。その結果、私達が敵になったとしたらそれは仕方ないこと。私達の今までの行いが生んだこと。こういうの少女漫画では運命って言うんだ。はは、血生臭い少女漫画だな。冗談じゃねぇや。
この世には、
ありったけの食べ物を持っていながらもそれを無駄にする人間がいる。その裏ではご飯がなくて子供が餓死している。そんなクソみたいな世の中はもう終わりだ。強くなって、力を手に入れて、私が終わらせる。だからみんな笑えよ。
うん、だからやっぱり怖がらなくていいんだ。きっと大丈夫。安心して好きなもんにだけに手を伸ばせ。
62人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ナツメ | 作成日時:2018年11月19日 18時