【本編小説】この夏は君と。 (ページ31)

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◇眼を覆うを程の青[三葉梢] ページ31

「おぉ…！」

何駅か電車を乗り継ぎ、降り立った地に思わず声が漏れる。
一歩踏み出すとしゃりしゃりという音と共に、後ろに白い砂浜に足跡が連なる。
窓の奥を見れば、愛しの我が弟が仏頂面の中で羨ましそうに眼を細めた。

手には服やらゲームやらを詰め込んだ大きなバッグが一つ。
しかしいつの間にかそれらを投げて勢いよく眼前の青に向かって走っていた。唯一握りしめている左手にはいつも一緒の携帯端末。

ぼすっという砂の中に重い荷物が埋もれる音。
斜め後ろに視線を向けると控え目に、しかし立派な幹の樹が緑を添えている。

基本は海に来るのならサンダルだろうが、生憎履いているのはお気に入りのスニーカーだ。

携帯端末をパーカーの右ポケットに入れ、幹の分厚い樹脂に足を掛る。
腕を伸ばして枝を掴み、上へ上へと上昇していくのは慣れたものだ。

登っている際、嗅いだことの無い、からっとした塩気のある風が鼻を撫でた。

「ひゃー…やっぱこっちの方がいいねぇ！地平線まではっきり見えるし風も気持ちいい！！」

一番太い枝に腰掛け、脚をぶらぶらと意味も無く振る。
先程まで付けていたゴーグルを上へ外せば、ガラスに覆われた無機質な風景から一気に生気が漲る。
画面越しではあるが家族にも見せてやろうと思い、二、三枚シャッターを切った。

砂浜から見たよりも、より広く広がる群青を見たのは曖昧な記憶の中が最後だ。
青が白い泡を立てながら白い砂浜を呑み込み、引いていく様は、数ヶ月前体験プレイをした戦略ゲームに似ている気もする。

ふと視界の端に赤が映えた。
反射的に視線を移動させると赤、黄色、白、水色が視界に次々と入ってくる。

「誰かいる…おーい！！」

ちらりと振り返った向日葵に大きく手を振り、樹の幹に再びしがみ付く。
ずりずりと半分程下りてから勢いよく樹脂を蹴りながら砂浜に着地した。

何故か驚愕した様な表情の四人に手を振りながら近付く。
談笑しようとしていたのを邪魔してしまったのだろうか。

呑気に「こんにちはー！」なんて口が動き終わった後に脊髄を通って脳がそんな懸念をした。