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その日は、少しイライラしていた。
青い彼岸花の情報が中々得られずあの方に責められたばかりな上、ここ最近人間を喰えず空腹な事がより気分を悪くさせていた。
この際誰でもいいから一人で居るような人間はいないかと、近場のとある街に入り込む。
その街は、他の所とはどこか違った。
本格的な春はまだ先の筈だが、不思議と暖かな空気が漂い、何となく感情が高ぶるような、穏やかな気分になるような、とにかく不思議な気分だった。
・
思えばここから何かに誘われていたのかもしれない。
足の進むまま街を歩いていると、ふと大きな桜の木が目に入った。
足が自然と止まる。
まだ咲き始めではあるがそれは一際大きく立派な木で、満開になったらさぞかし綺麗だろう、と柄にも無く思った。
何百年と生きていると自然のものを美しいと感じたり楽しんだりする事は無くなっていたが、この桜の木は美しい、と心から思えた。
じっと眺めていると、ある物が目に付いた。
「…なんだあれは」
一本の枝に、白い紙が結びついている。
何故、と思ったが興味本位でそれを取り、広げてみた。
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名も知らぬ君へ
初めまして。見つけて頂き有難うございます。
私は外に出れない為、このような形になりますがもし宜しければお話がしたいです。
お返事を頂けるのなら、これと同じように桜の枝に文を結んでおいて下さい。
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なんだ文か、とその場に捨てようかとも思ったが、何故外に出れないのか、こんな文を出さねばならないのかが少し気になった。
迷ったが、何となく俺は返事を書いて指示の通り枝に結んだ。
「…何をやっているんだ、全く」
自重気味な笑みをこぼす。
文なんていつぶりだ、思い出せもしない。
人間だった頃に経験があるのかもしれないが、鬼となってからはそんな人間らしい事に縁は無く、興味も無かった。
本当に、ただの気まぐれだった。
すぐにやめるつもりだったし、まあもしかしたらこの人間を喰ってもいいな、くらいの気持ち。
俺は今でもこの気まぐれに感謝するし、後悔する。
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鮭大根大好き - 何と切ない，，，泣泣猗窩座はやはり優しい，，，素敵でした！ (2020年11月12日 20時) (
レス) id: 206c89cdd5 (このIDを非表示/違反報告)
ゆい - 切なくて泣きました 私もアカザが好きなので読むのが楽しかったです (2020年5月5日 2時) (レス) id: 9f2a54f0b4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：mel | 作成日時：2020年3月8日 7時
