検索窓
今日:87 hit、昨日:25 hit、合計:504,703 hit

ページ29

L.K




夢を、見た。


冷たい真っ暗闇の中で泣きじゃくる、幼い自分。その左目から流れる真っ赤な血だけが、唯一その場で鮮明に分かる色で。


何つー夢だよと心の中で吐き捨てた。こんな夢を見ることなんて、無かったはずなのに。耳に届く泣き声が、酷く鬱陶しい。


黙れと叫びたいのに、声が出ない。耳を塞ぎたくても、身体が動かない。


そんな時、歌が聞こえた。




『〜♪〜〜〜♪〜〜♪』




酷く懐かしいような歌声は、泣き声をかき消すかのように俺に届く。先ほどまでいたはずの真っ暗な場所が、光で溢れる明るい場所に変わっていた。


歌声は尚も続く。世間では子守唄と呼ばれるそれは、此方に語りかけるような温かさだ。夕焼けの草原のものではないその子守唄は、ずっと続いている。


よくお眠り、あなたは私の可愛い子。たくさん眠って大きく育て。愛しい我が子、腕に抱かれてゆっくり眠れ。誰にもーーー。


そこまで聞いたところで、目が覚めた。微睡む意識の中で周囲を見れば、ルイスが俺の腹をぽんぽんと叩きながら歌っているところで。……肉食動物の腹をんなに気安く触んな。




「……ガキ扱いしてんじゃねぇよ」




そう言って身体を起こせば、ふわりと笑いながら挨拶なんてして。そのままクルーウェルも交えて三人で話をした。話の中心をクルーウェルのピアスにして、そうしないと何故か。みっともない姿を見せてしまいそうだった。


やがて二人は植物園を後にする。その時に、ルイスが俺の頭をぐしゃりと撫でた。乱雑で、それでいてどこか優しい撫で方で。


あぁ、そうだ。夢を見ている間も、誰かに頭を撫でられたいた。優しくて、温かい手で。それで。……それで、あの声で歌うのだ。愛おしいという感情が込められた声で、可愛い子だと。愛しい我が子だと。




「……誰にもあなたを、傷付けはさせない」




ひく、と喉が鳴った。うまく呼吸が出来ない。鼻の奥がつんとして、目頭が熱くなってくる。


自分の身体の変化が、よく分からなかった。それと同時に、何だか複雑な感情が胸を支配する。嬉しいのか、寂しいのかがよく分からない感情。


やがて頰を伝う水で自分が泣いているのだと気付いた。目から流れ落ちた涙は頰を通って顎へ、それから地面にぽたぽたと落ちていく。


自分の身体が自分のものじゃないみたいで、止まることを知らない涙はずっと流れ続ける。


結局、俺が植物園を出れたのはそれから一時間後のことだった。








微睡のなかでー完ー。

先生ラジオあ←・



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (790 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
1333人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

あいらいん - なんでこれ公式じゃないんだろうって思うくらい好き (2023年4月4日 10時) (レス) @page43 id: c168593882 (このIDを非表示/違反報告)
硝子ーtengitune.(プロフ) - このラジオに出れるなら私は最近泣いたの所に「プリ〇ュアで泣いた」って言いそう (2021年9月25日 20時) (レス) @page36 id: 04fcd4138c (このIDを非表示/違反報告)
チーズ鍋 - 碌無者さん» 完全な手違いですね……。消そうと思っていた方じゃない方を消してしまって……。ありがとうございます(ノД`) (2021年9月24日 7時) (レス) @page1 id: 067328da22 (このIDを非表示/違反報告)
碌無者(プロフ) - あんなに書いてらしたのに続編が消えていて……手違いでしょうか? ご愁傷さまでございます。 (2021年9月24日 1時) (レス) @page50 id: 0a4b7a6801 (このIDを非表示/違反報告)
??? - 了解です!頑張ってください (2021年9月23日 22時) (レス) id: ae4d7ce9d5 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:チーズ鍋 | 作成日時:2021年9月6日 22時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。