恋 彼らの片思い

おーちゃんの場合 12 ページ13

アイツが辞めるって話はマルから聞いた。
あの会見の少し前。
吹っ切れたような顔してた。

｢笑顔で送り出したるわ｣
マルの笑顔は清々しくて綺麗だった。

ヤスの話になると泣きそうな顔になった。
クルクル変わる表情。
でも、ひとつも嘘がない。

いつものBAR。
今日はお互いそこまで酔っていない。

俺も自分のこと話した。

事務所を辞めようと思っていること。
引き留められてて、たぶん休業って話になるってこと。
自分の時間が欲しい。
やりたいことをやって生きていきたいって。
今、各方面と話し合いが行われていて
ウチのメンバーとも時間を設けて話をしてるってことも。
マルは頷くだけで静かに話を聞いてくれている。

｢それを踏まえた上での話なんだけどさ｣
｢おん｣
｢俺と付き合ってくれねぇか？｣

ちゃんと言いたかった。
全部話した上で。

｢おーちゃん、ごめんなさい｣

マルは俺が一番好きなあの甘くて優しい声で
俺が一番聞きたくなかったことを言った。

｢たつと付き合い始めたんよ｣

・・・。
やっぱ忠かぁ。
まぁ、わかってたけどさ。

｢いつから？｣
｢誕生日、ちょっと前くらい｣
｢みんな知ってんの？｣
｢ちゃんとは話してないけど薄々はわかってると思う｣
｢俺、諦めねぇよ？｣
｢でも・・・｣
｢でもじゃない。俺の勝手な気持ちだから｣

・・・悪あがき。
わかってるけどさ。

｢忠だろ？アイツがオマエのこと泣かしたら
俺がオマエ貰いに行くって言っとけ｣

｢おん・・・｣

忠がマルを泣かすことなんてない。
小さな喧嘩はするだろうけど
裏切ったり悲しませるようなことは
絶対にするわけがない。
俺の知ってる忠は、ヘタレだけど
まっすぐなヤツだから。

｢俺はオマエの幸せ願ってるからさ｣

そう言ったらまた俺の好きなあの顔で笑った。

｢ありがと、おーちゃん｣

あぁ。結局。
俺はこの笑顔に抗うことなんてできない。

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