【H×H】音色と恋色。【クロロ=ルシルフル】

26 ページ29

「先週、君の演奏を聞いてクラシックに興味が湧いてね。少し調べた。」



お兄さんは手元の小説の表紙をAに向けた。
題名は『宗教からみる音楽の歴史』。

わぉ、結構コアな本を読んでいらっしゃる。


クラシック音楽の始まりは簡単に言えば、教会で歌われるの聖歌である。
グレゴリウス聖歌から始まり、だんだんと正確さを求めて、詳しい音高が現されるようになっていく。


曲を楽しむだけではなく、音楽そのものを調べ始めてるとは。
この人いつか楽典などにも手を出しそうだ。

…本格的に興味を持ってくれたようで嬉しい限りだけど。



「面白いな。こういうの調べ始めると。」

「それは良かった。どんな曲が好きなんですか？色々聞いてみたんでしょ？」

「この街の図書館とかCDショップに置かれていたクラシック音楽はだいたい聞いたんじゃないかな。」


「え、この一週間で？お兄さんすごいね。」


本当にとことん追求するタイプなんだなとAは素直に感心した。
自分もそうであると自覚がある。
話が合いそうだ。



「気に入った曲とかありました？」

「…そうだな、一番印象が残ってるのはモーツァルトの『レクイエム』だね。」


「、その曲私もすごく好き。」


Aはその曲名に一瞬反応が遅れた。
まさかそこをついてくるとは、といった感じだ。
モーツァルトの『レクイエム ニ短調』

レクイエムとはラテン語で「安息を」という意味をもつ、死者の安息を祈るためのカトリック教のミサ曲1つ。

この曲はモーツァルトが自身が死へと向かう病床で書いたと言われる彼の最晩年の曲だ。

とても美しいミサ曲として有名で、中でも第8番『涙の日(ラクリモーサ)』はこの世のものとは思えないほどに美しい旋律が奏でられる。

私もすごくお気に入りの曲だ。
有名な曲だから知っていてもおかしくはないが、それでも彼のそのセレクトに何故か驚いた。
彼の雰囲気はそういった宗教曲のような“儚げ”なものはない。
どちらかというと“危うげ”なものを秘めている気がする。
いや、だからこそかもしれない。
危うげで不安定なものほど神秘的に見えることをAは知っている。




「…お兄さん、ほんとに趣味いいね。」


「お褒めにあずかり光栄なことだ。」


「でも意外。ショパンとかのほうが好きそうなのに。」

27→←25

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す