番外篇「生まれ変わっても」 ページ43
『晋助さん』
『あ?』
「見てください」と俺の服の袖を少し引っ張る。彼女の見ている方へ視線を移せば、そこには花屋があった。
店頭に並ぶ幾つもの花。そこで一際目立つ薔薇をAはジッと見つめているのだ。
『……欲しいのか?』
『いいえ』
そう首を振るも、再び薔薇を見ては足をピタリと止めてしまう。俺の傍から離れてその花屋へと小走りで近づいて薔薇の入ったバケツの前にしゃがみこむ。
俺はその後を追い、膝に手をつくくらい背を曲げて彼女の見ている薔薇を一緒に眺めた。
『……俺から離れるなって言ったろ』
『そんなこと言いましたっけ?』
キョトンとした目を向けるから、思わず口を噤んだ。……そうか、彼女は何も覚えていない。それも無理はなかった。だってあれは、もう何年前の話というレベルではないからである。
彼女の疑問に何も答えずにいれば、「わたし」とAは俺の代わりに話を続けていく。
『時々見るんです』
『薔薇に水をあげる夢を』
「大きな庭で、水差しを抱えながら」と柔らかく微笑んだ。
『赤と白と黄色い薔薇……』
「でも」と付け足しては長い睫毛の生える瞼を閉じた。そして俺を見上げ、悲しそうな瞳を見せる。そんな顔をして欲しくなく、理由を聞くように彼女の頬へ手を添えた。
Aは俺の手の上に自分のを重ね、ゆっくりと唇を開く。
『もうひとつ、薔薇を育てていたはずなのに……』
『その色が分からないんです』
彼女が死んでしまった後に咲いた薔薇だから仕方がない。俺はAから離れ、薔薇の花が生けてあるバケツに目を向ける。
彼女が言った赤と白と黄色の他にもピンクに紫やオレンジまで選り取りみどりの薔薇の花。どうやらこの店では専門的に取り扱っているようで、俺が探している色もそこにはあった。
俺が店員にこの色の薔薇は何本まであるのか聞くと、その店員は「何本でも」と鼻高々に言う。「それなら999本」と挑発した俺に「かしこまりました」と不敵な笑みを見せ、本当に999本の薔薇を丁寧に包んだ。
『思い出さなくていい』
『ただの夢だ』
俺の手から受け取った青い薔薇を、Aは戸惑いながらも結局は愛おしそうな目で見つめた。
でも俺は決して忘れない。
夢のような奇跡を見せてくれた、あの青い薔薇を
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まい - 999本の薔薇は「何度生まれ変わってもあなたを愛す」ですね。感動しました。 (2020年5月12日 20時) (レス) id: 7154107f34 (このIDを非表示/違反報告)
ユウ - 完結おめでとうございます。まさか、「おかえり、愛おしい人よ」シリーズと繋がっていたのだとは知りませんでした。そして感動し、鳥肌が立ちました。素晴らしい作品です! (2019年11月12日 18時) (レス) id: 7837a845b7 (このIDを非表示/違反報告)
莉緒奈(プロフ) - すごい感動しました!涙が止まらなかったです!本当におもしろくて、最高でした! (2019年2月9日 22時) (レス) id: 128bb1ac1a (このIDを非表示/違反報告)
ハル(6/17)(プロフ) - モモさん» 閲覧とコメントをどうもありがとうございます^^ 沖田もいいキャラですけど高杉も捨てがたいですよね〜〜〜!! そう言ってもらえてとても嬉しいです!! ありがとうございました( ´ ∀`) (2018年4月27日 14時) (レス) id: 0297264441 (このIDを非表示/違反報告)
モモ - 今回の作品もとても面白かったです!思わず涙ぐんでしまいました(笑)サドリーマンも好きだけど、特に高杉さんの作品が大好きです!私もどちらかと言うと高杉好きなのでwとても素晴らしい作品をありがとうございました!!! (2018年3月18日 20時) (レス) id: a467930736 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ハル | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/harumemory
作成日時:2017年8月24日 11時