地下室の９人 II

・ ページ9

.




hkside









風呂から上がると難しい顔をした薮がパソコンとにらめっこしていた。









hk『最近全然寝れてないみたいだけど…大丈夫？』



yb『あー、大丈夫。』



hk『でも、』



yb『だーいじょぶだから。光は心配性すぎる。』



はやく髪乾かしといでと、濡れた髪をぽんと一つ撫でられる。









今日も言いくるめられてしまった。







最近の薮はなんだか忙しそうで、なかなか2人きりになれることはなかった。









毎日サッカーばっかり見てるけど、仕事にかこる思いは強いし、やるときはやる。薮はそういう男だ。



せっかく2人きりになれたのに仕事かよ、なんて不満はとうの昔に捨てた…というより捨てざるを得なかったはずなのに。仕事仲間としてじゃなくて恋人として一緒にいる時は俺だけを見ててほしい、なんてわがままなのだろうか。







だからといってそんな小さなわがままでもやもやしているのではない。



ふたりで住む家に遅めに帰ってくることだったり、靴下を洗濯機にいれないことだったり、夜少し広めのベッドに1人で寝るのが増えたことにもやもやしてる訳でもない。








薮がなにか隠し事をしてる。





薮は日頃まわされる案件とは違う''なにか''に時間を費やしているのは、難しい数学や英単語がさっぱり理解できない俺でもわかることだった。








いままでどんなことでも薮は話してくれた。

でも今回は違う。









(俺が…嫌んなったとか…、)









昔から親にも心配性だと言われ続けて育った。

いつも小さなことで不安になる。









俺ばかりがあいつのことを考えて


俺ばかりが薮を好きで…








『……』









ドライヤーのスイッチを切る。





鏡に映るのは、可愛げのかけらもない顔。









なんか、疲れた。









.

・→←・

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す