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ぽかんとしている彼女の手に、その紙袋を持たせる。
未だに夢か現実か判断できていないような彼女の肩に手を置き、俺はできるだけ優しく笑った。
「じゃあ、またな」
彼女の華奢な肩から、俺の手が離れる。
石のように固まる彼女の隣をすっとすり抜けようとした、その時。
「ま、待って森山君っ!!」
切羽詰まった声でそう叫んだ彼女が、俺の腕を無我夢中に掴んできた。
痩せて、指の肉まで少なくなったようなその手で、疲労で筋力などが機能していないその細い指で、懸命に俺の服を引っ張っている。
赤くなった瞳はゆらゆらと揺れ、どこか泣きそうなその表情。
ただ一言叫んだだけだというのに、顔の青白さは増し、目が一瞬虚ろになる。
ふらりと倒れそうな体を思わず引き寄せ、彼女の体を自身の胸に乗せる。すると彼女は細い肩をひくりと跳ねさせたあと、小さく「ごめんなさい」とつぶやいた。
「森山君の誕生日……おめでとうってすら言えなくて。
携帯の充電はもうないし、お仕事で空く時間もなくて、誕生日だけはちゃんとお祝いしようって、思ってたのに……。ごめんなさい」
「Aが謝る理由はないだろ。……俺はこうして少し会えただけで満足だよ。急に押しかけて、ごめんな」
俺の腕の中でうつむく彼女が、ふるふると首を振る。
「森山君が来てくれて、私嬉しかったの。……本当よ。すっごくすっごく、嬉しかったの。
疲れなんて、吹き飛ぶぐらいに。」
「……そうか、よかった」
「森山君の誕生日なのに、私ばっかり喜んじゃってるわね。」
そういった彼女は、顔を上げて、綺麗すぎる笑みを浮かべて俺を見上げた。
やっぱり顔色は生きていない人形のような色ですごく悪く、唇も少し荒れて、目も隈や充血していることで健康体と言えない状態だったが、
彼女のその時の笑みは、本当に心の底から嬉しそうな笑顔で。
俺の我儘と我慢の限界で此処まで来たというのに、迷惑だと突っぱねられることを想定していたのに。こうして喜んでくれたことが何よりもうれしかった。
彼女のこの笑顔こそが、
最高の、誕生日プレゼントだ。
力の抜けた彼女の腰を引き寄せ、唇をついばむようにキスをすれば。
ダリアのつぼみが花開くように、美しく、可憐に笑顔を見せた。
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鎖月零(プロフ) - Flower*さん» flower!ありがとうございます!!短編の夢主は同じ夢主で書くのが普通だということを今の今まで知らなくて……全員バラバラにしてしまいました(笑)私も短編の方が書きやすくて軽くかけるので楽しかったです!続編頑張ります! (2018年2月26日 18時) (レス) id: e5c976073b (このIDを非表示/違反報告)
Flower*(プロフ) - 1完結(?)おめでとうございます!甘々で読んでてドキドキしてしまいました(*ノωノ) それぞれのお話の夢主ちゃんたちも個性豊かで面白し、何より短編なので読みやすいです。やっぱり零すごい……。続編の方も首を長くして待ってます! (2018年2月24日 0時) (レス) id: 4d95f4e8a2 (このIDを非表示/違反報告)
黛パフェ(プロフ) - 鎖月零さん» めっちゃ楽しみにしてます!!! (2018年2月18日 18時) (レス) id: d3f83fb575 (このIDを非表示/違反報告)
鎖月零(プロフ) - 黛パフェさん» うそぉ……本当に恥ずかしいです(笑)規制かかる系の甘々はあまり得意分野ではないのですが、楽しんでいただけると幸いです……!甘くなるように頑張ります (2018年2月18日 18時) (レス) id: a33d034fdf (このIDを非表示/違反報告)
黛パフェ(プロフ) - 鎖月零さん» 今でもたまに見たりしますよ!黄瀬くんの好きですー!規制とかあまり気にしないタイプなので別のアカウントで見に行きますねー! (2018年2月18日 1時) (レス) id: d3f83fb575 (このIDを非表示/違反報告)
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