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常にしゃんとしている姿勢を少し崩し、少し大きめの荷物を重そうに持っている彼女は、あまり辺りが見えていないようだった。
きっと視界がかすんでいるのだろう。無理もない、ずっと寝ていないのだから。
完全に俺が此処に来たことは迷惑になってしまった。馬鹿でもわかる。あんなに疲労困憊の彼女の睡眠時間を一秒でも削るのは迷惑どころの騒ぎではない。完全なる営業妨害であり邪魔以外の何物でもない。
すぐ帰ることにしよう。せめて、お疲れ様、とだけ声をかけて。
そう決心した俺は、ぼんやりとしている様子の彼女に一歩近づいた。距離は数メートル程度になる。
すると、彼女の焦点のあっていなかった目が、ようやく動き出し、こちらをゆっくりと見た。
何か動いているものに気が付いたというような様子で、最初は俺だということを全く認識しておらず、ぼうっと俺の顔を見て、数秒が経つ。
「お疲れ様、A。」
俺が、彼女にふと笑いかけ、そう告げた時。
彼女は夢から覚めたようにハッとし、ぼんやりとしていた瞳がやっと光を取り戻した。
しかと俺と目が合うと、何も言葉を発しないまま視線を右往左往させる。どうやら混乱しているようだった。
「……もり、やまくん……?本物……?」
ようやくそう言葉を発すると、持っていた荷物をどさりと落とし、目を懸命にこする。
腫れてしまいそうだ、と彼女の腕をやんわりと瞼から離すと、その下には目を真っ赤にさせた綺麗な顔があった。
「……え、夢……?」
「夢でも何でもない、本物だ。……少しだけ会いたくて、待ってたんだ」
「…………え。……うそ……私、間に合わないって思って……」
いつもは気丈で、どちらかと言えば高飛車な彼女が珍しく、弱弱しく語尾を切った。
まだ現実味がないようで、目を見開いたまま俺の顔を困惑した様子で見つめている。
そんな状況下でもやはり目の下の隈や、充血した瞳が気になってしまう。顔の色も白いし、抜け目のない彼女にしては珍しく髪も乱れている。やはり相当体に来ているのだろう。
会えて、こうして喋れただけで幸せだ。それは間違いない。あとは彼女がすぐにでも休息をとれるよう、俺は身を引くだけだ。
身を乗り出す勢いで俺をガン見している彼女の体を、静かに離し、
持っていた紙袋を差し出した。
「……疲れているようだから、これ、甘い物でも食べてゆっくり寝てくれ。」
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鎖月零(プロフ) - Flower*さん» flower!ありがとうございます!!短編の夢主は同じ夢主で書くのが普通だということを今の今まで知らなくて……全員バラバラにしてしまいました(笑)私も短編の方が書きやすくて軽くかけるので楽しかったです!続編頑張ります! (2018年2月26日 18時) (レス) id: e5c976073b (このIDを非表示/違反報告)
Flower*(プロフ) - 1完結(?)おめでとうございます!甘々で読んでてドキドキしてしまいました(*ノωノ) それぞれのお話の夢主ちゃんたちも個性豊かで面白し、何より短編なので読みやすいです。やっぱり零すごい……。続編の方も首を長くして待ってます! (2018年2月24日 0時) (レス) id: 4d95f4e8a2 (このIDを非表示/違反報告)
黛パフェ(プロフ) - 鎖月零さん» めっちゃ楽しみにしてます!!! (2018年2月18日 18時) (レス) id: d3f83fb575 (このIDを非表示/違反報告)
鎖月零(プロフ) - 黛パフェさん» うそぉ……本当に恥ずかしいです(笑)規制かかる系の甘々はあまり得意分野ではないのですが、楽しんでいただけると幸いです……!甘くなるように頑張ります (2018年2月18日 18時) (レス) id: a33d034fdf (このIDを非表示/違反報告)
黛パフェ(プロフ) - 鎖月零さん» 今でもたまに見たりしますよ!黄瀬くんの好きですー!規制とかあまり気にしないタイプなので別のアカウントで見に行きますねー! (2018年2月18日 1時) (レス) id: d3f83fb575 (このIDを非表示/違反報告)
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