Statice ⇔ 02 ページ3
実家を出た後、電車を乗り継いで何故か渋谷に来ていた。
目に付く大きな電光掲示板に、今では一躍人気モデルになった涼太が、悪童も裸足で逃げ出すような綺麗な笑みを湛えて映っていた。
旧友の活躍とは嬉しいもので、写真を撮ってタイムラインに上げれば相応の反応が返ってくる。
本人無しに交わされる会話に苦笑しつつ、どうして来てしまったのかと後悔した。
暑いし、人は多いし。目立つ赤髪のせいで、チラチラと見られるし。
特に行く宛もないのに、スクランブル交差点を渡る。
少し歩いて、入った雑貨屋は僕に似合わないような、可愛らしいお店だった。
目に入ったペアのマグカップを手に取り、レジへと足を運ぶ。
一つだけでいい筈なのに。ね。
「彼女さんとお使いになられるんですか?」
冗談めかして言われた言葉に、どう返していいのかわからなくなって。
使う、使ってくれるだろうか。
いや、きっと。
あの食器棚の中にずっと置かれたままだろう。
一回も、使わない。
「はい」
誤魔化すように淡く微笑んだ。
.
.
あの後家に帰って、それまでの記憶がない。
目が覚めたのは、ソファーの上。
上半身だけ起こすと、無理な体制で眠っていたせいか体の節々が痛い。
しまった、明日から普通に仕事だ。
何も考えずにうたた寝してしまった数時間前の自分を呪いつつ、今日買ったマグカップを洗おうと荷物を探した。
一人で夜を迎え、朝を待つ。
三年前の、あの日から。
頭が痛くて、こめかみを押さえた時。
無機質な部屋に、無機質な音が響いた。
こんな時間に誰だ、と。
そんなことを考える暇はなくて。
走るようにして鍵を開けたのは、きっと。
一人で迎える夜が寂しかったからなのか。
あの温もりが、忘れられなかったからか。
「ただいま」
勢いよくドアを開けると、彼女がいた。
僕の、A。
強く抱き締めた時に感じた冷たさは、冬のせいにした。
暑い?夏?
どうして、そんな馬鹿なことを思ったのか。
目が覚めた時から、この部屋は暖かかった。
外は雪が降っていて、寒さからか彼女の頬は赤くなっている。
見ていられなくて、部屋の中に引き入れた。
嬉しさと、何故か哀しさと。
気持ちが入り混ざって、泣きそうになって、笑ってしまう。
「おかえり、A」
深夜0時の事だった。
167人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「黒子のバスケ」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
雨紅(プロフ) - 何度もコメント失礼します。本当に何回読んでも泣いてしまいます。人間の内面を抉るような文章の書き方、全てに感動しました。繰り返し読んでいます。ありがとうございました。 (2015年12月7日 0時) (レス) id: 85987802b2 (このIDを非表示/違反報告)
緋莉(プロフ) - 感動と切なさで胸が一杯です。。素敵な小説をありがとうございました!! (2015年8月23日 21時) (レス) id: 758bbf0526 (このIDを非表示/違反報告)
悪童 - 赤司様がいいです!!! (2015年7月20日 20時) (レス) id: 36a059792c (このIDを非表示/違反報告)
水城(プロフ) - 赤司様で!!! (2015年5月13日 23時) (レス) id: 4984122abc (このIDを非表示/違反報告)
雨紅(プロフ) - 赤司くんがいいです!! (2015年5月13日 19時) (レス) id: 4a5e53c7aa (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:綵架 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/ayakamakar1/
作成日時:2015年4月25日 18時