【太宰治】今はただ生きたい。【文スト】 (ページ26)

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#25 ページ26

Aside

これ以上の会話は蛇足だ

それは私だけじゃなくて太宰も感じたようだった

会ったあの瞬間に終わらせるべきだったのだ

適当な理由なんか付けずに、一思いに手を伸ばしてしまえばよかったのだ

そうすれば太宰を心中に誘うこともなかったのに

A「太宰。開けるのは君だ」

礼拝堂への扉へ視線を向け、そう言葉を溢す

自分で開く気にはなれなかった

私はそこまで根性があるわけではないのだ

太宰もそれを察したのか、何も言わずに取っ手に手を伸ばした

扉がゆっくりと開き、光が礼拝堂のなかへと差し込んでいく

その光をゆっくりと目で追えば、祭壇の上に人影が見えた

太宰の後に続き、中へと足を踏み入れる

2人分の足音が静かな空間に木霊した

祭壇に寝かされた人物を前に、太宰が小さな声で私の名前を呼んだ

私への呼びかけなのか、はたまた目の前の人物を確かめるように呟いたのか

答えはわからない

わかることはただ一つ

私は確かに死んでいた。

ということだ

夢でも幻でもない

今、目の前にあるのは私という人物が生きていた証であった

傷だらけの身体を隠すように包帯をし、右手のない私の身体だ

眉を顰める太宰の横で、私は満ち足りた気分だった

まさしく至高と呼ぶべき満足感で感情という器が満たされている

私はずっと自分が生きているのかわからなかった

ポートマフィアに参入するまでの15年間、私が関わった人間は両親のみだ

その両親は私を基本的にいないものとして扱った

だから、私は私の存在を疑った

この身体さえ自分のものと思えない中、唯一痛みだけが私の存在を証明してくれた

この身体が私のものだと、思考と同期することで実感できた

私の渇望は、それ以外では満たせないのだ

A「太宰」

太宰「…なんだい？」

A「ひとつ、謝らなければいけないことがある」

太宰「…へぇ、ひとつかい？もっと沢山あるだろう？」

A「否、ひとつだ。私はずっと君を騙していた」

そう言うと太宰はピクリと肩を動かした

太宰のことだ、察しがついたのかもしれない

A「君はずっと、私の無痛症を制御しきれない異能のせいだと思っていたね」

太宰「…君がそう言ったし、それに」

A「理由はいいさ。私は、私の異能『生まれいずる悩み』をちゃんと制御できる」

出会った頃からずっと制御できていないと見せていただけ

私がなぜ自ら痛みを遠ざけのか、それは――

A「君が君であったからさ」