#12 ページ13
Aside
死んだら終わり。何もかも。
行きつく先は虚無であり、虚空だ
私はそれに対し嫌悪もなければ勿論恐怖というものもない
虚無に落ちることには、慣れている
生まれたところに戻る感覚だ
そうであったはずなのに…
A「消え去る覚悟はあったはずなのに…太宰の顔を見たら気が変わった…」
そう。
あの時、数年ぶりに太宰を見て、私は…
A｢ただ生きたいと…思ってしまいました…｣
与謝野｢……そうかい｣
太宰が探偵社にいることは中也から聞いていた
どんな顔をして会えばわからずにいるうちに私は死んだ
何故か生き返ってしまったけれど、いい機会だと思った
今の私は恐らく異能生命体だ
太宰でなくても私を消すことはできるだろう
それでも私が消えるために太宰を訪ねたのは、言わば嫌がらせだった
太宰は私がお願いをすることを心底嫌がっていた
痛みに笑う私を彼はいつも気味悪がった
だから思ったのだ
私が太宰の手でこの世から消えたら、太宰はきっと目を見開き固まるだろう
その反応が楽しみだったのだ
与謝野｢太宰と…仲が良いんだな｣
与謝野先生と呼ばれていたお姉さんは、言葉を選ぶようにそう言った
私はその言葉に少し驚き、それから笑ってみせる
A｢さぁ？それはどうでしょう｣
太宰はきっと私のことを鬱陶しいと思っているだろう
その事をお姉さんに告げると今度はお姉さんが驚いた顔をした
どうやらお姉さんには、太宰が私の事を鬱陶しいと思っているようには見えないようだ
与謝野｢…アンタは、太宰を見て生きたいと思ったんだろ？｣
A｢えぇ…あの瞬間思ったんです。嗚呼、ここで太宰の手によって消えたら、彼は悲しむだろうと…ここで消えたら私は後悔の中死んで逝くのだろう…と。だから今はもう少しだけ…生きていたい｣
太宰悲しむなんて自惚れかもしれない
それでも、私にとって太宰がかけがえのない存在であったように、太宰も少なからず私の事を友だと思っていてくれたなら…
あの瞬間に消えなくてよかったと心の底から思えた
それでも…長く生きるつもりはない
だから、私は自分で終わりを作った
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