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*
青根さんは考え込んでいた。気長に返事を待っていると、ぼそりと低い声がする。
「…………邪魔に、ならなければ」
「邪魔!? いや、全然！ 仲間は多い方がいいよな！」
な!? と返事を求められて、こくこく頷く私と研磨さん。影山さんは私が食べられると言った果物を頬張りながら、でも微かに頷いている。
「…………ありがとう」
ありがとう、と彼が――青根さんが言った。
その一言、軽く頭を下げた時の表情に――ふと、思い起こす何か。
それが何であるか、私にはすぐに分かった。
*
「じゃ、しゅぱーつ！」
すっかり元気を取り戻した日向さんが先頭に立つ。
太陽の高いうちにもう少し進もう、そう言って出発した。今日のうちに行けてあと数キロだけど、進まないよりはいい。
「…………」
「影山さん、食って寝るってそれもう典型ですよ」
「…………わかってる」
眠そうな影山さんに注意だけしておいた。歩きながら眠りはじめそうで心配だ。
日向さんはしきりに研磨さんに話しかけており、彼の杖の上にはチョコンとヒナガラスがとまっていた。
なぜだか進行方向でなく私――後ろを向いているけど、……気にしないでおこう。目を合わすな。
そして、私と影山さんの後ろには青根さん。後ろにいるだけでなんだか頼もしく感じられるのは、きっと気のせいじゃない。
…………ふと。
ふと、言葉が頭の中で繰り返された。確証はない。だって名前すら確認していなかったのに、そしてこれはただの偶然だったのに。
何か、何かの因果を感じざるを得ないのは。
「…………青根さん」
名前を呼ぶと、青根さんは少し前に来て屈んだ。私と視線を合わせるためだろうか。
「…………大事な人が」
それは、あなたの大事な人ですか。
「言ってました。『一回くらい帰ってこい！』……ですって」
驚いた顔をする青根さん。
お互い言葉足らずだけど――でも、それでもきっと伝わっているし、伝えられた。
青根さんはまた少し黙って、それから微かに頷いた。姿勢を戻す。
「…………終わったら、」
この旅の目的は、それぞれだ。
倒したい。救いたい。戻したい。……そして、続くそれが何なのか、私にはわかることができないけれど。
「全部が終わったら、帰る」
また、ありがとう、と彼は言った。
伝えました。……伝えましたからね、私。
その時が来たらきっと、あのあたたかい空間で、あたたかく出迎えてあげてください。
*
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作者名：スマトラ島のラフレシア | 作成日時：2016年8月1日 18時
