一羽の飛べない雛烏

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『…え、なんでしってるんですか』




まさか俺を知っている人がいるとは思わなかった。
やっぱり、と呟くのを見る限り、最初から薄々気づいていたんだろうか。




「中学の時有名だったんだよ、怒所にやべーヤツラがいるってな。
佐久早と、古森と、鈴鳴。初めて会ったときからなんとなくそうかなとは思ってたんだけど。


俺等が引退してから全く名前聞かなくなったし、訳ありかもとは思ったんだけど、流石に煽るのは良くなかったよな」



ポツポツと語られ、ごめん、ともう一度謝られる。


…めっちゃ失礼だけど、正直、この人挑発大好きであんま人の気持ちとか考えない人かと思ってたけど(本当に失礼)、




意外といい人なのかもしれない。





『…俺、兄の影響でバレーボール始めたんですけど』



多分話そうと思ったのは気まぐれだったけど、黒尾さん話してくれたし、俺も黙っとくのはな…と思い、小さくそう語る。

黒尾さんは前を向いたままうん、と聞いてくれた。





『小学生の時に事故で母と一緒に死にました。父はもっと前に。』



そういえば、少し気まずそうな顔をした。
思った通りの反応をされて、ちょっと笑ってしまう。



『それでもバレーは楽しいから続けてたんですけど、別に俺、バレーが好きってわけじゃないんですよね。

それで周りからおかしいって言われました。

友達は気にしなくていいって言ってくれましたし、俺も今はあんまり考えてないっすけど。




俺が中学生の途中から名前を聞かなくなったのは足の怪我のせいです。

事故にあって、今でも右足がうまく機能してなくて…スパイクとかはもう打てないです。




…さっき諦めるなって言われたとき、その時のことを思い出して。

医師は諦めるなって言ったけど、結局無理だった。


無理に期待をもたせるなら、最初から落としてくれたほうが良かったのに』



小さくふぅ、とため息をつく。
あ、最後の方ため口になっちゃったな。



『…まあ、そんなわけで無責任な“諦めるな”って言葉が嫌いで、俺はもう跳べないんです。

…あっ、でも黒尾さんたちには何も言ってなかったので気にしなくていいというか、悪いのは俺なんで！』




途中で、もしかして失礼なこと言ってる…？と気づき、必死に弁解する。

そしたら、ははっと笑い、頭を軽くぽんとされた。



「怒ってねーよ！
ありがとな、話してくれて。辛いこと思い出させただろ」

と言い笑う。

ああ、やっぱりどこまでも優しい人だ。

話してよかった。





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