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じいちゃん ページ2

·








『っ……悠仁ッ!!』






頼まれていた資料作成という仕事を放棄した私は、決して速くはない自分の足を必死に動かしながら病院への道を急いだ。

途中で何度も人にぶつかりそうになり、色んな方に迷惑をかけたけれど、今の私には謝罪の言葉を述べる余裕すら無い。


ただ息を吸い、吐きながらひたすらに走り続け、愛する人達が待つ病院の301号室へと駆け込めば、そこにはベッドの上に横たわった祖父を寂しげに見つめる弟の姿があった。






「あ、姉ちゃんおかえり。髪の毛ぐちゃぐちゃだけど、走ってきたのか……て、どうしたんだよ」






それは私を気遣ってなのか、はたまた強がりのためなのか。

そんな悠仁の言葉を聞き終わる前に、私は彼の大きく骨ばった体をめいっぱい抱き締めた。


走ってきたから前髪がボサボサでも、スカートの裾が少しめくれていても関係無い。






『ごめんね……私、最期まで悠仁に任せっきりで』


「……でもじいちゃん、喜んでたよ。Aは立派なヤツだって。毎日頑張ってる姉ちゃんのこと、ちゃんと分かってたと思う」


『……そっか』






悠仁の手が、私の背中を優しく撫でる。

ふんわりと香った柔軟剤の匂いは、私とお揃いの柔らかい石鹸の香り。






『……本当に、死んじゃったんだ』






眠る様に横たわる祖父の体はピクリとも動かず、息をする音さえ聞こえない。



死んだ人間を見るのは、これが初めてだった。

きっと触れれば血の気が無く冷たいし、生前の温かみなんて感じられないのだろう。


それでも心の中ではこんな呆気のない別れに納得いくわけがなくて、本当は生きているかのように錯覚してしまう。


今すぐにでも起き上がって、「ああ、来たのか」って。


そう、言ってくれるような気がして。






「……なあ、姉ちゃん」


『……なに?』


「これからは、俺が姉ちゃんのこと守るからな」






妙な静けさの中、こちらを真っ直ぐ見つめて呟いた悠仁の姿がぼやけて揺れる。


ポロリと頬に伝う水は生温く、それでいて塩辛い。






『……うん』






遠くでは夕焼けに向かいさんざめくカラスの声が鮮明に響いていて、ほんの少しだけ目眩がした。







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夜の病院→←Prologue「ともしび」



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いか焼き - 好きです!!! 最高すぎます、、、応援してます!今から2を読んできます!楽しみすぎる…! (2022年7月4日 2時) (レス) @page50 id: 5bb1efd8a4 (このIDを非表示/違反報告)
ユナ(プロフ) - 宿儺の声が頭の中で聞こえたらワイある意味死んでう( ´ཫ`)って思いながら見ました←めっちゃ面白いです!!応援してます( ˃ ˂ ) (2022年1月25日 0時) (レス) @page31 id: dce21dc0b1 (このIDを非表示/違反報告)
古椎エゴ(プロフ) - Tomorrowさん» ご指摘ありがとうございます。変換ミスしていたみたいです!知らせていただき助かりました! (2022年1月24日 17時) (レス) id: c3c7b307dc (このIDを非表示/違反報告)
Tomorrow(プロフ) - コメント失礼します。とても面白くて何度も読み返してます!ところでなんですけど、祥子ではなく硝子だった気がします!間違えてたら申し訳ないです! (2022年1月24日 17時) (レス) @page30 id: 81fe567fc7 (このIDを非表示/違反報告)
ミーコ(プロフ) - 面白いです!宿儺推しなのでこの話はとても好きです!がんばって書いてくださいね!応援しています! (2022年1月23日 23時) (レス) id: b974f3c01e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2022年1月22日 17時

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