【おそ松さん】お前らがいる限り、元には戻れない。２

46話。 ページ16

風を切るような鋭い音が耳元から聞こえる。
いつもは聞こえてくる人々の声、
雑音が耳に入ってこない。


看護師の怒号の声も、周囲からの視線を無視して、
彼女のいる病室へと駆け込もうとする。
しかし。病室の扉の前で足が止まった。

自分の荒れた呼吸音と心臓音がうるさい。

「はあｯ…。」

部屋番号横に書いてあった名前を見る。
何度見ても彼女の名前だ…。

息を整える為に一度大きく深呼吸をした。



「…失礼します。」

願う事はただ一つだった。





しかし。





【短編小説でありがちな事は
現実では起きない事を知った。】


目の前の光景に、僕は唖然とするしか無かった。


沙織ちゃんは意識が戻っている。

泣き疲れたように
目の下が赤く腫れているトト子ちゃん。

恵美ちゃんが珍しく泣いていて、誠も悔しそうな表情を浮かべている。



｢な、何が起きてるの？……ねえ。｣



声に反応したのか、
沙織ちゃんが僕の方をゆっくりと見る。


｢【何でそんな空っぽな瞳をしてるの？】｣
｢……。｣

残酷なことしか、もう思い浮かばない。





すると、君は僕の考えを覆すように
いつものヘラっとした笑みを浮かべた。

そんな幻覚が見え始めたのだろうか。

【現実はそう甘くはなかった。】










｢貴方は、誰？｣
｢え。」

伸ばした手が振り払われた時の気持ちのように、
頭にずーんと鉛がのしかかった。

一瞬トト子ちゃんが悲劇の舞台の役者に見える。
顔をぐちゃぐちゃにさせ、泣きながらこっちを見た。


｢十四松！｣と声を荒らげる兄弟が僕の背後に立っている。僕を追いかけてきていたのだろう。

しかし、今の僕にはそれすらも理解が回らない。


「え？な、何言ってるの？沙織ちゃん？
僕は十四松だよ？？……そんな嘘つかないでよｯ！」

僕は近づき沙織ちゃんの肩を強く揺らした。


｢いや！痛い！ごめんなさいｯ…ごめんなさいｯ…。｣

君の声も周囲の声も聞こえない。
｢嘘だ｣と言う言葉を自分自身に言い聞かせた。


「十四松！！落ち着け！！」

兄さん達によって無理矢理止められてしまう。
｢嫌だ。嫌だ！｣と僕はもがき続けた。


「離してよ！チョロ松兄さん！皆ｯ！！

こんなの、沙織ちゃんじゃない！！
【あの子はこんな顔をする子じゃないよｯ…！！】」

僕の言葉が部屋中に響き渡った。
部屋にジワジワと静寂が襲って来ている。





もう、君の顔が見れない気がした。

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