非合理的か感情か：赤 ページ11
「やめろ!!」
衝撃に耐えて目を瞑っていたとき、聞きなれた声が部屋に木霊した。
目を開ければ、拳を握り締めた弟者が立っていて。
手を振り上げていた親戚はゆっくりと彼を見ると、手を下ろし鼻で笑った。
「…やっぱりアンタも変異体だったのね、良くもぬけぬけと」
「Aに指一本触れるな」
アンドロイドは命令以外自分で行動するのはありえない。
そう今まで聞いてきた。
でも、先程言われたように、アンドロイドでも可能になることがある。
それが、変異体なのだ。
声の出ない私は、只々その状況を見守ることしかできない。
「アンドロイドのクセに生意気な…」
そこまで言ったとき、弟者は銃を構えた。
流石に予想していなかったのか、親戚はそれを見た途端目を見開き後ずさる。
「なんっ」
「これ以上俺達に関わるな」
失せろと言わんばかりに弟者は強く睨みつけた。
怯えるように彼女は彼を見つめたまま、ドアを開けると慌ただしく消えて行った。
弟者…。
声こそ出ないものの、弟者を見つめると、彼は俯き呆れたように頷くとこちらに振り向いた。
「A…よかった」
すぐに近づき抱き締めてくれる。
身体を離すと彼は悲しい表情をしていた。
「ごめん…すぐに気づけなくて」
私は首を横に振る。
「もうここにはいられない」
深刻そうに言う弟者の言葉に、ゆっくりと頷いた。
彼は私の手を握ると、こう言った。
「…少し遠いんだけど、南に助けてくれる人を知ってるんだ、そこに兄のアンドロイドもいる」
助けてくれるはず、だから俺と行こう。
強く握り強い眼差しで弟者は私に伝えた。
ここにはもう直警察が来るだろう。
だから疾うに覚悟は決めていた。
連れて行って、弟者。
そう声は出ないけど口にすると、彼は微笑んで頷いてくれた。
そして手を繋ぎ外へ駆け出した。
「どんなことがあっても、Aは俺が守るからね」
そう笑う弟者を見て、自分も微笑み返した。
彼はアンドロイドだけど、たった一人の私の家族で。
そして私自身彼を機械として見たことは一度もなかった。
胸の奥で感じた高鳴りを、このときは走っているただの動機だと、そう感じただけだった。
Aが弟者に対する感情。
そして弟者がAに対する非合理的か感情かを知るのは、もう少し先のお話。
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作者名：sky | 作成日時：2018年5月17日 23時
