【牡丹一華】＊＿＿＿＿中原中也 ページ15
【運命の相手は何処に】
華やかな結婚式とか、禁断の駆け落ちとか。女の子なら一度ぐらいあると思う。勿論、そういう自分も夢見たことは数えきれない。
叶わない妄想だとは理解していても、少しだけ思ってしまうのだ。私だって、好きな人と結ばれて幸せに暮らして幸福な一生を送る。
それも数日前のこと。半ば無理矢理で有名なマフィア幹部と結婚することになった。正直言ってほとんど初対面の人間と。溜め息が零れた。
『はぁ……』
中原中也。遠目に一度だけ一瞬だけ。顔を見たことがあるな、ぐらいの認識だった。身長は低いけれど、顔立ちは素敵な男性だと。
当時の私は太宰幹部の秘書官。何かと彼には近付けさせてもらえず、結局一度も喋ったことがない。それも数日前のことなのだが。
「……オイ」
『あ、えと、中原さん』
「もう手前も中原だろうが」
『あ、はい。そうでしたね』
太宰幹部が抜けてからは、太宰幹部の抜けた空席を埋める形で幹部代理をしている。首領は正式な幹部にと云ってくれたが、生憎。
私はそんな器ではないし、太宰幹部の方が素晴らしい人材だ。だからせめて戻ってくるまで。淡い期待のまま、幹部代理を務めている。
『じゃあ、中也幹部。何か御用ですか』
「幹部って……。まァ、慣れるまで良いけどよ。珈琲淹れたから此処、置いとくな」
『すいません。ありがとう御座います』
「……もう夫婦なんだから、敬語止めろ」
『でも幹部ですし……』
「それは手前もだろ」
『私は代理です！！』
彼は少しだけ、眉間に皺を寄せた後。私の大量の机に置かれた書類を見つめた。そして再び、眉間に皺を寄せて歩み寄ってくる。
「休日も仕事かよ」
『終わんないんですもん』
「手前、秘書官の時も書類溜めてたもンな」
何故、この人は知っているんだろうか。え、と小さく声を出すと彼はあ、と小さく漏らして。顔を真っ赤にして片手で顔を覆った。
『え』
「ああああああああああああ、やっちまった。畜生、御免な、引いたよな、うわああああぁ」
本当にあの中原……、中也幹部なのだろうか。何時もの余裕そうな態度は何処へやら。今にも死にかけた蛞蝓のように項垂れている。
『……あ、えっと』
掛ける言葉が行方不明。鰓呼吸を必死にする魚のように、口をパクパクさせてから手を止めて歩み寄り、その項垂れた背中を擦った。
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作者名：セニオリス | 作成日時：2019年8月13日 14時
