思い出 3 ページ7
其の晩、寝台の中でうとうととしていると、ふにゃふにゃと治春が泣き出した。
起き上がり、寝台に座って治春をあやすAの横顔を見つめていると、不意に目があった。
「…龍…?どうしたの?」
「…A。…Aは、本当に、治春を産んで良かったと思っているのか?」
「…えっ?」
「…Aは、大丈夫だと云って居るが、何時も夜泣きで辛そうにしている。…其に」
もう、言葉が溢れて止まらない。
「僕は、僕が治春の父親で良かったとは思えない。」
「龍」
「僕は、未だ弱い。…其に、此の手は、今迄殺めた者の余りにも汚れ過ぎている。此の様な汚れた手をしているから、治春も嫌がり、僕に抱かれると泣く。」
「龍之介」
「だから、僕が、良い父親になれる訳がー」
「龍、其は違うよ。」
気が付くと、治春を寝台の上に寝かせたAに抱きつかれていた。
「…私だって、自分が治春ちゃんにとって良い母親かどうか何て解らない。」
でもね、とAは続ける。
「私、子供を産んだからって直ぐに親になるんじゃなくて、子供を育てて、子供と一緒に親として成長していくんだって思うの。」
嗚呼、
「其に、龍だって、仕事もあるのに、一生懸命治春ちゃんの世話もしてくれるし、(娘ちゃん)ちゃんの事を何よりも心配してくれてる」
「…ならば、何故、治春は僕に抱かれると泣く…?」
ぎゅ、と震える腕をAの腰に回し、そう尋ねると、
「…あのね、赤ちゃんって、抱っこされてる時に、抱っこしてる人が不安になっていると、其れが解って安心できないんだって。」
嗚呼、そうだったのか。
「…だから、龍は不安にならなくていいんだよ。だって、龍は治春ちゃんのパパなんだから。」
そう云って、優しく僕を抱き締める。
「…嗚呼」
不甲斐無い事に、涙が溢れた。
不安は、既に溶けさっていた。
「ほら、治春ちゃんもパパに抱っこして欲しいって」
Aから治春を抱き取る。
治春は、泣きもせず、僕の顔をじっと見ていたが、不意に、にこっと笑った。
其の笑顔と、腕に伝わる温もりに、再び涙が溢れた。
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作者です。少し長くなりましたが、『思い出』編は次で終わります。
引き続き、よろしくお願いします!
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チエリ(プロフ) - リクエストです。娘ちゃんの七五三が見たいです! (2020年12月2日 16時) (レス) id: 26773a3f05 (このIDを非表示/違反報告)
りん(プロフ) - リクエストしてもいいですか子供ちゃんが芥川君にいやと言って太宰さんに懐いたらお願いします (2020年11月28日 14時) (レス) id: c1f033818d (このIDを非表示/違反報告)
あやねっち - 更新楽しみです! リクエストで 夢主が長期任務に行ったらでお願いします 医療なのであまり無いと思いますがお願いします! (2020年6月3日 22時) (レス) id: a393e3772d (このIDを非表示/違反報告)
ルナ(プロフ) - 森さんとエリスとの触れ合いが読みたいです。 森さんにお茶を運ぶちーちゃんとかエリスとおままごとするちーちゃんとか… 中也の帽子を被って真似っこするちーちゃんとか。 (2020年4月15日 20時) (携帯から) (レス) id: 66cf0ac4ec (このIDを非表示/違反報告)
水無月カエデ(プロフ) - リクエストよろしいですか?治春ちゃんが風邪ひいて、主人公と芥川が看病するお話はどうでしょうか? (2019年8月12日 8時) (レス) id: 6738e6e757 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:独楽:ころん | 作成日時:2018年8月12日 20時