第277話:微笑 ページ41
どうして……いや、この距離で気付く筈なんてない。
多分視線に気付いたんじゃなくて、何かの拍子にたまたま見上げたんだろう。
予想外に「見ていたことを見られて」しまったので、
あわ、どうしよう、でもこの距離だし何も出来ないか、と一人で焦っていると。
赤司さんが、
ふ、と笑って、
小さくひらりと手を振った。
「……!」
心臓が、ドッ、と大きく跳ねる。
私も急いで、彼に手を振り返す。
私が振り返したのが見えたかどうかの内に、赤司さんは隣の男子生徒に声を掛けられ、何事も無かったように視線を戻して校舎の中へ消えていく。
「……び、っくりした……」
う、わ、……うわぁ。
なに、今の。なんか、……すごかった。
言葉にできないけど、すっごい、きらきらしてなかった?
まだ心臓がどっきんどっきんいってる。
多分、赤司さんと目が合っていたのは3秒…にも満たないくらいの時間だった。
それでも、
彼の、あのやわらかな微笑み。
小さく振られた手。
何気無い一瞬の動作が、目に焼き付いて離れない。
古典的な言い方をすれば、心臓に矢が刺さったような衝撃、を受けた。
あのとんでもなく整った顔、絶世の美貌に微笑まれたら、どんな難攻不落の美女でもころりと落ちてしまいそうだけど。
それ以上に、「恋人に向けられた」視線と笑みというのが、破壊力を桁違いに押し上げている気がする。
今の私なら、わかってしまう。
あれが他の人に向けるものとは全然違うってこと。
「……待って……」
誰に、何をともなく、思わずそんな言葉が洩れる。
え……大丈夫?
土曜日になったら私、あの人と2人きりで一日出かけるの?
あんな光、真正面から浴び続けたら、消し炭になるんじゃない……?
ただでさえあの少し高めの声で吐かれる甘い口説き文句と、強く眩い赤の瞳に弱いというのに。
しかも、私服だ。学校にいる間とは違う雰囲気の赤司さんだ。
勉強会の時に一度見てはいるものの、さすがにデートの時の服装となれば違うだろう。
なんだか急にこわくなってきた。
悩殺、というワードが現実味を帯びてきて笑えない。
もしかしなくても、悩ましく殺されるのは私では?
心臓が幾つあってももたないんじゃないか。
……だめだ、私一人では太刀打ち出来そうもない。
かと言って残るはあと平日の5日間のみで、落ち着いて装備を整えに行く時間もない。
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白虎 - 赤司くんはやっぱりカッコイイですね〜 (7月21日 10時) (レス) id: eab1ac402f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Mae | 作成日時:2022年4月19日 19時