第274話:自覚 ページ38
そんなはずは。
だって、私、人を好きになったことなんてなかったし、恋なんて全然分からないのに。
でも……。
ふっと脳裏に赤司さんの顔が浮かぶ。
体育祭の保健室でまっすぐに伝えてくれた言葉。
(僕は、Aが好きだ。)
それを思い出しただけで、
「………〜〜〜〜っ!!!」
口許を押さえて思わずしゃがみこんだ。
触れている顔がさっきよりも熱い。
沸騰した血液が破裂しそうに全身を走り回っている。
さつきちゃんが、どうしたの!?大丈夫!?と慌てたように覗き込む。
けれど、驚きと混乱で顔を真っ赤にしたまま硬直している私を見れば、聡い彼女は一瞬でぴんと来たらしい。
「……もしかして、いま自覚した?」
その問いかけに、目を逸らしつつ小さくこくん、と頷けば、私と同じように口許に手を当てて「あらぁ〜……」となんとも言えない顔で飲み込む。
そのままずるずると背中を壁にくっ付けながら下降してきたさつきちゃんが、私の横にしゃがんだ。
「そっ……か〜〜。
えっと、……なんかね?
赤司君がAちゃんを連れてきた時ってだいぶ強引だったみたいだし、最初は赤司君からの気持ちの矢印が大きいのかな〜って思ってたの。
ちょっと心配もしてたかな、Aちゃん男の人ニガテって聞いてたし。
でも、体育祭から付き合い始めたってことは両想いになったのかとわたしはてっきり思ってて……、それにしてはAちゃんから聞く話も惚気と言うよりは「あったことを報告!」って感じだなと思ってはいたんだけど」
いや、そうだよね。
付き合うって基本的には両想いってことだろうし、そう考えるのが普通だろう。
私はさつきちゃんに恋愛感情に疎いとは言っても「本当に何も分からない」とは伝えてなかったし。
「いやーーーーごめんね。
こういうのって、人に言われるより自分で気付く方がいい、って聞くよね……。
わたし余計なこと言っちゃったなぁ……」
苦い顔でしきりに謝る彼女に、私は大きく首を横に振る。
さつきちゃんが言ってくれなかったら気付くのがいつになっていたか分からない。
「むしろ、楽しみな気持ちだけ持って能天気にお出掛けに臨んでいたらと思うと感謝しかないです。ありがとうございます。」
さつきちゃんの方に向き直り、深々と頭を下げる。
赤司さんの誠意と好意に対して、半端な態度で赴くところだった。
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白虎 - 赤司くんはやっぱりカッコイイですね〜 (7月21日 10時) (レス) id: eab1ac402f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Mae | 作成日時:2022年4月19日 19時