朱に捕らわれば赤くなる６【赤司征十郎】 (ページ33)

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第269話：プライベートページ33

その言葉は大げさでもなく、十日前にあった傷は跡形もなく消えていた。
中学生の自己治癒力を舐めたものではない。

Aがわざわざ袖のボタンを外して綺麗な肘下を見せてくれる。
体育祭の擦り傷も当然さっぱりと消えていた。

白魚のような…とは人魚の手指の比喩だったか。しかしそれくらい綺麗な腕だ。

そんな古めかしい慣用句すら、大袈裟ではないくらいに。
いや、この表現は多少親父くさすぎるからしまっておこう。

｢こほん。それは良かった。｣

わざとらしく咳払いをして、
そうして、ふと浮かんだ疑問を口に出してみる。

｢そういえばAは……普段、休みの日なんかはどうしてるんだ？
最近は疲れを溜めてない？｣

眞鍋の悪夢に魘されてないか、ちゃんと眠れているか、リフレッシュできているのかを、眞鍋の名前を避けつつ遠回しに聞く意図である。

思えば僕はAの趣味やプライベートはほとんどまだ知らない。
一緒に帰る時に、ほんのり触れたことがあるくらいで。

｢そうですね……、入部する前も、今もですけど、休日は家にこもっていることが多いです。
お家で勉強したり、家事をしたり、本を読んだり、映画を見たり。

たまに程近いスーパーとか図書館に行くことはありますけど、リフレッシュ目的と言うよりは必要に駆られての外出で……。

両親は土日関係なく多忙なので、……その、一人で出掛けるとかは、私はあまり。

……外出が嫌いな訳ではなく、なんていうか、気が引けるので……。｣

彼女の言い淀みで気付いた。
僕としたことが、浅慮だったと言わざるを得ない。

Aは男にトラウマがある。
一人で外に積極的には出ないのだ。

信頼できる幼なじみと図書館で勉強したり、バスケの自主練に付き合ったりするような用事でもない限りは。
もしくはどうしても必要に駆られてコンビニやスーパーに寄るくらいで。

その幼なじみの黒子だって、中学に上がってからは部活で精一杯で、Aの休日に付き合うこともなかなか出来なかっただろう。

｢幸い、家の中でできることで十分満足できるタイプではあったので、苦労したとかではないですよ。

でも、やっぱり、たまには外で羽を伸ばせたらなって。

何かに怯えず、周りを気にせず、思いきりはしゃげる人間だったらな、って、

……わがままに、思ってみることも、あります。｣

……その気持ちのどこがわがままだと言うのか。
普通の中学生の女の子が持って然るべき自由と権利だろう。