第268話:消毒 ページ32
ともあれ、僕はバインダーを置いてAの横たわったベッドの脇、丸椅子に腰掛けた。
僕を見上げる彼女の両手は布団の上に投げ出されている。徐に彼女の片手を軽く持ち上げて、制服の袖を少しだけ捲った。
Aは僕の一連の動きを不思議そうにきょとんとした顔で見ている。
わざわざ僕が自分の座っている位置から遠い左手を取ったからだろう。
「怪我が無いか、一応ね」と言うと、ようやく意図を理解したようである。
そう、あの悪戯の主犯に、机に押し付けられていたのはこの左手だった。
「赤みや痣はできていないね。
痛みは?」
「ないです。ほんの短い時間でしたし……」
幸いにも今回は怪我や傷は無し。
だから良いというものでもないが、僕が絡むとAが怪我をするジンクスが本物になっても困るから。
「とはいえ消毒はしておこう。
少し借りるよ」
そう言って、彼奴に触れられたであろうAの手首や甲を、擽るように優しく触れていく。
消毒、またの名を上書き。
正直、前回ので多少、味を占めている。
日焼けを知らないような真っ白な手首は驚くほど細く、少しでも力を入れたら折れてしまいそうだ。
女子だ。なんて細いんだろう。
Aってこんなにも華奢なのか。
何度も手を繋いだことはあるが、改めて驚く。
僕が軽く握っても一周して余りあるほっそりとした左の手首をしげしげと眺めていると、その持ち主はクスクスと可笑しげな笑みを洩らす。
「うふふ。赤司さん、くすぐったい。」
「ああ、悪い、つい。」
この細腕を上から推し潰そうとした(誇張表現)奴等はやはり万死だな。到底許せない。
一瞬沸き上がりかけた怒りを、しかし今はどうでもいいと頭の隅に追いやり、最後に、
「これで終わり。」
ちゅ、と軽く音を立ててAの手の甲にキスする。
それだけでボッ!と赤面するから、僕の行動に慣れてきたとはいえまだまだ初心でかわいらしい。
「そこまでされてません……」
「知ってるけれど。」
記憶と感覚まで塗り替えるのが目的だから。
やりすぎなくらいでちょうどいい。
ちょっとキザなくらいでね。
「……他の傷は?
だいぶ薄くなったか?」
今度は頬に触れて、彼女の髪を耳に掛けてやる。Aはこそばゆそうにしながらも大人しくそれを受け入れる。
「はい。もうすっかり治りました。どこにあったか、わからないくらいに」
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白虎 - 赤司くんはやっぱりカッコイイですね〜 (7月21日 10時) (レス) id: eab1ac402f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Mae | 作成日時:2022年4月19日 19時