第239話:ご機嫌 ページ4
昇降口を抜け、教室棟へ向かう階段に差し掛かる。筋肉痛のせいでゆっくりゆっくりにしか進めない私のペースに、赤司さんが合わせてくれている。
「ん……そうなると、自分でヘアアレンジをしたAをちゃんと見るのは実質僕が初めて、ということか。」
「あっ、そう…ですね、」
「それは悪くないね」
嬉しそうに笑ってもう一度私の後ろ髪を梳く赤司さん。やっぱりいつもより雰囲気が明るいと言うか、よく笑う気がする。
今日はなんだかご機嫌さんですね、何かあったんですか、と何気なく聞くと、
「うん?そうかな。
会いたかった人に思いがけず2人きりで会えたからかもね。」
「?? …私に?」
会いたかった人、だなんてわざわざ遠回りな言い方をする人だ。
赤司さんのこういう思わせぶりな喋り方は、緑間さんと喋っていたり茶化したりする時によく使っている気がする。
「うん。用があった訳では無いんだけれど。
昨日の晩から無性に、Aに会いたいと思っていたんだよ。」
「へ…………
…っそ………うなんですか、」
そんな照れくさいようなことをこれほどあっけらかんと言われてしまうと、なんて返したらいいか分からなくて困ってしまう。
「ふふ。そうなんだ。
……A、ちょっとだけ時間を頂戴。
こっちに来て。」
少し上の段に居た赤司さんが私の手を取って、エスコートでもするようにどこかへ誘う。
急かさないくらいの絶妙な速度で階段を登りきり、屋上手前の踊り場に辿り着いた。
2年生の教室は3階で、誰かが屋上へ行こうとすればすぐに見つかってしまうような場所だけど、朝から屋上に用がある生徒はそうそういない。
そんなこの時間だけ死角になる静かな場所に私を連れ込んだ赤司さんは、すとんと鞄を足元に置くと、ゆっくり私の背中に腕を回す。
私はされるがまま、そおっと鞄だけ下ろして直立不動で彼からのハグを受け入れた。
すん、と息を吸うと、赤司さんの匂いが吸い込まれる。部活の時とはまた違う、でも清潔感のある落ち着いた爽やかな香り。
包まれると朝だというのに勝手に心臓がドキドキと鳴り出してしまう。
赤司さんの手がすり、と肩や腰、背中を撫でていく。
ぎゅっと抱きしめるでもないその触り方がこそばゆくて、思わず上擦った声が出てしまう。
「っん…急にどうしたんですか、赤司さん、
…ねぇ、くすぐったい……」
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白虎 - 赤司くんはやっぱりカッコイイですね〜 (7月21日 10時) (レス) id: eab1ac402f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Mae | 作成日時:2022年4月19日 19時