第八十一話 ページ32
先生を追いかけるために席を立つ。
暁と胡桃に一言告げてから、家の鍵を手に取った。
ちなみにうちはほとんど夜中子供3人しかいないためオートロックで、私と暁と胡桃そして両親で計5本しか鍵がない。
先生が革靴を履いている隙に私はサンダルを履く。
とんとんと爪先で地面を叩きつつ、先生は立ち上がる。
ふたりして扉を開けると、夜特有の少し冷たい風の中に先ほどの雨の名残を感じた。
アスファルトが黒く染まり、雨の匂いが香る。
ふとポケットの中の鍵がちゃり、と金属音をたてた。
「先生はこのあたりに住んでるんですか?」
「ん、あぁ……学校のすぐ近くのアパートだ」
「賃貸ですか?」
「まぁな、実家は日本じゃねぇから」
あぁ、そういえばハーフなんだったっけ。
そう思いながら先生の横顔を眺める。
先生も私の視線に気づいて、こちらを見る。
灰色の瞳と視線がかち合った。
「……アイルランド人、でしたっけ」
「あぁ、祖母の方がな。 祖父もその後も全員日本人だけど」
「そうなると先生の国籍って何なんです?」
「アイルランドだよ」
あぁ、やっぱりかと思った。
そうなると、先生ってアイルランド人っていうこともハーフだっていうこともできるのか。
「アイルランド語ってしゃべれます?」
「ん、ゲール語のことか?」
「……よくわからないけど、アイルランドの公用語のほうです」
「アイルランドでは確かに公用語ゲール語は存在してるけど、ほとんどは英語なんだ」
「あ、道理で……」
やっぱりそういうもんなんだなぁとぼんやりと道の先を見つめながら考えた。
最近、古来の言語が全国共通語にどんどん払拭されていっているきがするんだ。そしてそれは私にとってとても不満に思うこと。でもきっと世界からすれば、コミュニケーションがしやすくなるからいいことなんだろうけど。
ふと先生が足を止めてくるりと私を振り返る。
街灯に照らされるその顔はどこか楽しそうに見えた。
「Oíche mhaith agus brionglóidí milse duit」
「えっなに!?」
「ゲール語のおやすみなさいだ」
「長っ!え、え、じゃあこんにちはは?」
「Dia duit」
「短い……」
眉根を寄せて困惑を隠さずにいれば、先生はさも楽しそうに笑う。
やがて二人の足は曲がり角までたどり着く。そこでようやく、先生とやっとちゃんとした仲直りができたことに気づく。
どちらも謝罪なんてしなかったけど、それでいいんだと思う。
「じゃあ、先生」
「あぁ……じゃあな」
また学校で。
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始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - ayakaさん» Rの要素ございました? (2020年6月25日 14時) (レス) id: 6c149362e0 (このIDを非表示/違反報告)
ayaka - [R]つけてください (2020年6月24日 20時) (レス) id: 6bf9ec98ce (このIDを非表示/違反報告)
始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - ゆうきさん» あぁああうれしいです!全力できゅんっと来るような描写をさせていただきます…無駄に多く長い小説をすべて読んでいただき感激のあまり…いや本当に感激です!(語彙力が足りない)ありがとうございます、頑張らせていただきます!! (2017年6月25日 13時) (レス) id: d48db6c0c1 (このIDを非表示/違反報告)
始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - いか糖さん» 本当に長くなりそうなので飽きないって言ってくださってうれしいです……!ワンパターン・テンプレばかりの小説だというのにそんなことを言って下さるなんて…!頑張ります!! (2017年6月25日 13時) (レス) id: d48db6c0c1 (このIDを非表示/違反報告)
ゆうき(プロフ) - コメント失礼します!先生かっこよすぎませんか!?一話から続けて読んでいますが、先生の一つ一つの動作にキュンキュンさせられてます!こんな先生本当にいたらいいのにな…更新がんばってください!楽しみにしています! (2017年6月11日 15時) (レス) id: 6c9139a3b2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:∧∧ネコミミ∧∧ | 作者ホームページ:
作成日時:2014年11月14日 20時