【2】サド教師とツンデレ生徒【名前変換オリジナル】

第七十七話 ページ28

「タオル……その、どうぞ……」
「……あぁ」

気まずさの中、私は真っ白なタオルを渡して、先生はそれを受け取る。
無言で自分の髪や体を拭く先生に、私はそわそわと視線を彷徨わせた。

天気予報を裏切る突然の豪雨に、都合よく傘なんて持っているはずがない。
二人してびしょぬれになったまま、私たちはうちの玄関に駆け込んだ。
自分の分のタオルを持って、髪の毛を拭く。
床にはすでに水たまりができるほどに私たちは水浸しだった。

先生はずっと終始無言で、窓の外から降り注ぐ雨をじっと見つめている。
まだ夕方の明かりを点けるべきかどうか定まらない時間帯。
雨のせいで、窓の外は絵の具のように真っ白である。
学校行く前に洗濯物下げててよかった、とそんなことを考えていた。

「……雨、やまないな」
「……そう、ですね」

そんな微妙な会話。
続くはずも続けるつもりもない会話に、私たちは二人でただ窓の外を眺めていた。

ふと、飽きたのか先生が視線をこちらに寄越した。
そして静かな、何かを訴えかけるような目をして私の方を見てくる。
私たちの、視線が、絡み合う。

「……無防備だな」
「……え？」
「誰でも、こんな簡単に家にあげるのか？」
「いえ……あの、いつもは兄や妹が家にいますし……」
「今日は誰もいない、だから男を家にあげるのか？」
「それは……」

軋む音を立てて、先生がソファーから腰をあげる。
そしてゆっくりゆっくり一歩一歩踏みしめるように、私の方へ距離を縮ませる。

明かりのついてないせいで、どこか陰のさした先生の表情。
私はそんな彼の灰色の瞳に釘付けだった。
嗚呼、綺麗な色だ。

「こんなことになると」

そこまで言って、先生は言葉を止める。

私の後ろの壁に片手をつき、私を壁際に追い込む。
数センチもない先生と私との距離に、私の鼓動は急速に跳ね上がった。

「せん、せい……？」
「……こんなことになると、そんなことは考えなかったのか？」

耳元で、先生の低音な声が鼓膜を揺さぶった。
ぞくりと背中に何かが走り、指先が強張る。
行き場のない手は、ただだらんと私の横で力なくぶら下がっている。

「だから、無防備だと言ったんだ」

そう言って、先生は私の顎に手をかける。
くい、と顔をあげられて、先生の端正な顔が目に映る。
ダメだ。これは、目に毒だ。

「……でも」

茹だりそうな頭で必死に口を動かす。

「先生は、無理やりなんて、しないでしょう……？」

目の前の顔が呆然としたものに変わった。

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