【2】サド教師とツンデレ生徒【名前変換オリジナル】

第六十四話 ページ15

はぁ、とため息をつく。
それとほぼ同時に本鈴が鳴ってしまい、授業は諦めるしかなさそうだ。

「それで……何があった、って……？」
「何か、あったんでしょ。 ちょっと見れば分かるよ」

あぁ、そういえば千佳はいつもこうだった。
私の心を見透かしてしまうんだ、こんな簡単にも。

いつもふざけてる千佳。
だけど、その実誰にも気づかれないようなことが彼女には見えてしまう。
私の強がりも、その一つだ。家族にだって、見破られたことがないのに。

「……どうしたの？」
「……えっと、ね」

話しづらい。
何だか、罪悪感を感じてしまうのだ。
まるで告げ口をしているような気分。
だけどそれでも私は覚悟を飲み込み、口を開く。

「……笹塚先生の、ことなんだけど……」

先ほどあったことをかいつまんで話す。
観察眼の鋭い千佳ならば、先生のこともきっとお見通しなんじゃないかって、根拠のないただの期待。

ただ、胸の苦しみに言葉がつっかえてしまう。
どうして、なんで、どうして。
終わりのない問いに、千佳だけが頼りだった。
ただ、答えを求めるために、途切れ途切れになりながらも必死で言葉を紡いだ。

「……奏音はさ」
「……え？」

あらかた話し終えて一息つくと、千佳はふと口を開く。
それに顔をあげ、千佳を見る。
いつものふざけた調子は一切ない、真面目な千佳の顔。

「自覚したことはない？自分のこと」
「……え？」

言っていることの意味が全く分からなくて、私は首を傾げる。
だけどそんな私に対して、千佳は辛抱強く続けた。

「誰かに依存してるって、思ったことはない？」
「……いぞん……？」
「そう、依存」

自分が、誰かに……依存してる？
そんなことを感じたことは、一度もない。
だって私は……私は、ずっと……一人、だったかもしれない。

そりゃあ独りぼっちだとか、頼れる人がいないとか、そういう意味じゃなくて……
ただ、周りから「しっかり者」や「みんなの姉御」、
そういうレッテルを貼られ続けてきて、自然と……

誰も、頼らなくなった。

俯いて何も言わなくなった私に、千佳はいう。

「うん、奏音は誰かを頼らなさすぎなんだよ。 周りに頼られることは間違いじゃない。 それは決しておかしいことじゃない。 だけどさ……崩れ落ちちゃうのは、どんどん弱くなっちゃうのは、奏音だけだよ」

いつか限界が来る、と冷静に告げる千佳に、何も言えない。

「会って、話してくればいーじゃん！」

……あぁ、千佳が友達で本当に良かった。

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