story39*敦くんの入社噺 ページ44
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敦くんは眉をひそめ、私を心配そうに見つめている。
「急に席を立ったから驚きました。何かあったんですか?」
「あ……その、太宰さんが心配で……」
「太宰さん?」
一瞬不思議そうに首をかしげた敦くんだったけど、すぐに何かに気づいたのか、優しく微笑んだ。
「探しに行こうとしてたんですね、太宰さんのこと」
「う、うん……でも、死にたいと思ってる太宰さんを助けていいのかなって」
私の懸念を伝えると、敦くんは大丈夫ですよ、と笑ってくれた。
「Aさんが探しに来てくれたら太宰さんきっと喜びますよ! 僕も手伝うので行きましょう!」
「あ、うん……国木さんはなんて?」
業務をほっぽり出して出てきたものだから、遅刻もした上に何だ、と怒られそうなのに。
敦くんは国木田さんが怒ってないことを教えてくれた。むしろ私のことが心配だから着いていってやれ、と言われたのだとか。
「国木田さん……!」
「誰も怒ってないので行きましょう」
フォローが完璧な年下の先輩に手を引かれ、私は1番近い川を目指して歩く。そこはどうやら、太宰さんと敦くんが初めて会った場所らしい。
「そういえば、敦くんはどうして探偵社へ入社したの?」
「えっと、僕は……」
キョロキョロしながら、少し言いにくそうにした敦くん。しかし直ぐに口を開き、私に虎の事件の顛末を聞かせてくれた。
「……それで、災害指定猛獣だった僕を探偵社が拾ってくれたんです」
「……そうだったんだ」
敦くんは意外と災難な人生を送ってきたらしい。私は少し悲しくなってしまい、唇をきゅっと結んだ。
それを見た敦くんが、直ぐに話題を変える。
「太宰さん、いませんね」
「……うん。この川じゃないのかな?」
4時を回り、少しずつ空が橙色に染まってきた。
やっぱり私の勘違いかもしれない。太宰さんはまた生き延びてしまって、社員寮でお酒を飲んでいるのかもしれない。
そう考えると、少しだけ気持ちが軽くなった。
敦くんに謝って、探偵社に戻ろう。そう思って振り返ったとき。
「Aさんは、どうして探偵社に入ろうと思ったんですか?」
「……え?」
思わぬ質問が飛んできて、私は動けなくなってしまった。……そっか、敦くんに聞いたんだから、次は私だよね。
私が探偵社へ入ろうとした理由。
それは、6年前に火事にあったからで……
「…………あれ?」
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鈴蘭(プロフ) - ウナさん» 私も書いててひえええってなってます笑(?) (2019年4月30日 12時) (レス) id: 2e99d5c18a (このIDを非表示/違反報告)
鈴蘭(プロフ) - みそしる大臣さん» そんなドキドキをお届けできているなんて嬉しい限りです(^^) (2019年4月30日 12時) (レス) id: 2e99d5c18a (このIDを非表示/違反報告)
鈴蘭(プロフ) - SAKA0829093さん» ありがとうございます!ダラダラ更新で本当すみません… (2019年4月30日 12時) (レス) id: 2e99d5c18a (このIDを非表示/違反報告)
ウナ - もうヤバイですマジでもうヤバイですよ!!!!ひええええってなります(?) (2019年4月3日 19時) (レス) id: 0bc8f10023 (このIDを非表示/違反報告)
みそしる大臣 - 夢主より僕の方が早くキュン死にしそうだ…心臓が持たない! (2019年3月30日 23時) (レス) id: 487407bef1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:鈴蘭 | 作成日時:2018年5月25日 1時