story38*行方不明の太宰さん ページ43
.
机についてから手を動かし続けていた私は、1度大きく伸びをした。
パソコンの画面から目を離し時計を見ると、出社してから3時間。
「太宰さん……来ないな」
太宰さんの座る机には人の姿はない。
入水自 殺に失敗するとその足で探偵社に来ることが多いのに、今日は一向に来ない。
やっぱりさぼっているのかな? なんて適当な考察を立てているとき、ふと、気付いてしまった。
(まさか、死んじゃった……とかじゃないよね?)
いくら生命力の強い太宰さんでも、そう何回も川に飛び込んでいれば1度くらい死んでしまっても不思議ではない。
……もしも、その『1度』が今日だったら。
「た、たすけなきゃ……!」
太宰さんがいない探偵社を想像し、私はひやりとする。そんなの、絶対にだめだ。
私は勢いよく席を立ち、薄手の外套を羽織ると、たったひとつの扉に走り出した。
「おいA、急にどうした」
「太宰さんが危ないんです……!」
「はあ? どういう意味だ……って、A!」
頭上にはてなマークを浮かべる国木田さんを無視して、私はオフィスを飛び出した。
泳ぎに自信はない。力もない。私で太宰さんを助けられるだろうか。自分が非力だということは誰よりも自分が理解している。私は太宰さんを引き上げられる自信が無い。
「いつもどの川で入水してるのだろう……1番近いところでいいのかな……」
焦る気持ちを抑え、冷静に考える。ここからの距離からして、考えられるのは3通り。
とりあえず1番近い川に向かうこと決意するが……しかし、私の足はどんどん重さを増していた。
「そもそも、死にたくて自 殺してる人を私の勝手な判断で止めてもいいのかな……?」
太宰さんは死にたがり。社長も国木田さんも敦くんも、太宰さんの入水にはなんの口も挟まない。
……もしかしたら、死ぬのも個人の自由として流しているのかもしれない。
だとしたら、私がこんなふうに動くのはお門違いなのではないか。そんな考えが過ぎり、足が進まなくなる。
「どうしよう、どうしよう……!」
死にたい太宰さんの意思をくみ取って、気付かないふりをするか。
私のわがままを突き通して、助けにいくか。
しかし、答えが出ない私の肩に誰かの手が置かれたことで、私の思考は止まってしまう。
「Aさん、一体どうしたんですか?」
「あ……敦くん……」
振り返ると、どこか心配そうな顔を浮かべた敦くんがいた。
.
story39*敦くんの入社噺→←story37*国木田さんの誤解
911人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
鈴蘭(プロフ) - ウナさん» 私も書いててひえええってなってます笑(?) (2019年4月30日 12時) (レス) id: 2e99d5c18a (このIDを非表示/違反報告)
鈴蘭(プロフ) - みそしる大臣さん» そんなドキドキをお届けできているなんて嬉しい限りです(^^) (2019年4月30日 12時) (レス) id: 2e99d5c18a (このIDを非表示/違反報告)
鈴蘭(プロフ) - SAKA0829093さん» ありがとうございます!ダラダラ更新で本当すみません… (2019年4月30日 12時) (レス) id: 2e99d5c18a (このIDを非表示/違反報告)
ウナ - もうヤバイですマジでもうヤバイですよ!!!!ひええええってなります(?) (2019年4月3日 19時) (レス) id: 0bc8f10023 (このIDを非表示/違反報告)
みそしる大臣 - 夢主より僕の方が早くキュン死にしそうだ…心臓が持たない! (2019年3月30日 23時) (レス) id: 487407bef1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:鈴蘭 | 作成日時:2018年5月25日 1時