歌.い手引退宣言出来ない件(白目)【歌.い手】

＊29話 ページ29

『ふー、歌い切った〜』

「でも凄い楽しかった。」

『それは私も。』

その時、私の頬を涙がつうと伝った。

「あれ、どうしたの？」

目を丸くする彼方さんに
へへ、と苦笑いを浮かべる。

『ちょっと感情移入しすぎちゃったみたい。』


私には歌い出すと周りが見えなくなってしまう癖がある。

歌の中に入ったような気分になるんだ。


「俺も、」

そう言って彼方さんはふっと笑った。

「こんなに曲に入り込めたの、初めてかも。

それってさ、Aの才能かもね。」

『…どういうこと？』

「周りの人を引きつける。それって凄いと思う。」

『…ありがとう。』


照れくさくて、彼方さんの顔を直視できない。





ああ、もう自分の気持ちに素直になろう。





私、彼方さんのことが好きみたいです。

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