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時は移り、練習終わり。マネージャーは私一人なので、黙々と用具を倉庫に運ぶ。
倉庫に備品を片付け終えて外に出ると、
「お疲れ様、やな」
そんなセリフと共にサイダーを手渡される。キザな言葉も少女漫画みたいな仕草も＿＿＿今の彼と自分の位置関係も、全て何だか可笑しくて。
だけど、相手がセンラくんってだけで眩しいストーリーに変わってしまう辺り、やはり惚れたら負けなんだろう。
ありがとう、と笑って受け取り、近くの段差に腰かけてプルタブを引っ張る。心地よい音と香りが、缶の上でバウンドした。
センラくんは隣に座って、しばらくとりとめのない話をした。ベタな天気の話から始まって、数学教師のモノマネ、文化祭の出し物、クラスメイトのことまで。
原点を忘れてしまうほど、話題は転がって盛り上がって尽きなかった。
夏はもう、すぐそこだ。日は長い。
「俺さ、Aのピストル好きなんよね」
＿＿＿ピストル、という単語を都合のいい脳ミソがかっ飛ばしそうになって、瞬きを繰り返す。痛いくらいにフラッシュが焚かれて、やっと我に返った。
「えっ、と...合図が好きって、どゆこと？」
他にも色々(主に言葉のチョイスについて)聞きたかったのだけど、そんな勇気などあるはずもなく。
とりあえず、彼が言いたかったことを把握するために質問を投げかける。
そもそもスタートの合図といっても、私がやっていることは他の人たちと変わらない。教えられた通りに、教えられたポーズを構え、引き金を引くだけだ。
それが好きだなんて何を言い出すんだろう。
そんな困惑が、今の私の正直な気持ちだった。
「うーーん、何ていうか...上手く説明はできひんけど、背中を押してもらえるっていうか」
「Aのピストルが鳴った瞬間に、追い風が俺の後ろに吹くんよね。ざあって」
「頑張れって、負けんなって、走り抜けって。＿＿＿応援されとる気がして」
「頑張らな、って思う。そんな感じ、やな」
何か恥ずかしいな、なんて、照れ臭そうにはにかんだけれど。
＿＿＿恥ずかしいのはこっちの方だ。
確かに、確かに思っていた。
彼がもっと速く走れますようにって。
彼が彼らしく走れますようにって。
思っていたし、願っていた。
ただ＿＿＿まさかそれが、本人に伝わるなんて。
嬉しいけど、恥ずかしい。
心に大きく生じた動揺を隠すように、私は口を開いた。
＊→←【センラ】空き缶、スタートライン、そしてゴールテープ/nana
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なのなの-VII(プロフ) - 以前から気になっていたのですが、時間がなく、やっと拝見させていただくことができました。私の少ない語彙力では、気持ちを全て伝えることができないことが悔しいです。なので、一言だけ。とても、素晴らしかったです。 (2019年12月9日 23時) (
レス) id: 3d69e77dfd (このIDを非表示/違反報告)
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