14-7 ページ49
「…それ、酷いと思いません？」
ぽつりと、呟いた声。
振り返ると、モニターから目を離さずに彼が口を開いていた。"酷い"、それは私の手元にある資料に対する言葉で。
衝撃で何も言うことが出来ない私に、彼は続けざまにこう告げた。
「保護、なんて名前が付いてますけど。裏でこんなことやって、これが国の機関なんて信じられないでしょ？」
「…え、これ」
「──事実ですよ。知らないんですか」
手元の資料に視線を落とし、何度も文字列を読み返す。これが、事実。使用薬品と付箋の貼られた資料だけでなく、実験結果と書かれた付箋が貼ってある物にも手を伸ばす。
非人道的な実験、結果。正直、これが真実だなんて、いきなりそう言われても信じることなどできるはずがない。研究室に勤務していた頃はこんな話、一度も聞かなかったのに。
私が唖然としていると、彼は私が本当に何も知らないということを悟ったのか「…そうですか」とだけ呟いた。
「…出ましょう。用事は済みました」
椅子から立ち上がった彼。それを見て、未だに信じられない手元の"それ"から手を離した。はらはらと机の上に落ちた紙切れは、まるで私が研究室にいた数年が無駄だとでも言うように薄く、脆くて。
やけに、研究室の扉が閉まる音が大きく聞こえた。
通路を進む足取りが重い。何故、このような事実が隠されていたのか。私がここに遊びに来ていた時に一緒にいた子たちは、それこそ私が一緒に暮らそうとしていた子は──
白い毛並みに、珍しい赤の瞳。アルビノだとされるあの白猫。
何故か、通路を先に進む彼とあの小さな猫が重なって見えた。
「このまま研究棟への通路を急ぎます。そらるさんとは中枢で落ち合う予定ですから」
淡々と告げた彼に、動揺が拭えないまま声をかける。
「…あ、の。まふ、さん？なんで、この事を──」
「──その名前で呼ばないで下さい」
急に、冷たくなった声。
それは心臓に届くように、突き刺さるように鋭く。
初めて目が合ったかと思えば、その瞳は氷のように冷ややかで。
「僕は──貴方のことが、嫌いだ」
鋭い、紅玉は私の心を抉るようにこちらへ向いていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 201人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
結月。(プロフ) - この作品と出会ってから一気読みするほどめちゃくちゃ大好きです。作者様のペースで構いませんので、更新楽しみに待っております。 (2022年2月10日 2時) (
レス) id: 286dc51d91 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：#N/A | 作成日時：2021年11月24日 21時
