五十柱 ページ50
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「ほう、ここまで身体が軽いのは久しいなあ」
ふわりと微笑んで、狩衣の袖先を摘んだ指を口元へ持っていく。
身体には、傷一つ無く、血の赤も無い。
まさしく、『神様』の如く神々しい身姿だった。
その光景を見た瞬間に、血の気が引くような感覚が私を襲う。
それは霊力不足なんかが原因ではなく、純粋な恐怖だった。
弓なりに細まった瞳が、緩やかに上がった口角が。
煌びやかな雰囲気が、圧倒するような空気が。
＿＿＿＿＿ああ、似ている。
「…主？」
「ぁ、はい。い、かがされましたか？」
ひらりと目の前で手を振られ、我に帰る。
ドッと冷や汗が背中を伝い、指先が小刻みに震えた。
それを気付かれないようにさり気なく拳を作る。
「燭台切も治したのだ、また負担が掛かっているに違いない。今日、この後に予定はあるのか？」
「本日は…刀剣男士様を顕現したく思います」
「…ふむ、仲間、か。いつまでも俺と主の二人と言うわけにもいくまいか…して、鍛刀でも？」
首を傾げる三日月様に、離れへの道を歩きつつ説明する。
前に縮地を使い鍛刀部屋に訪れた事、またそこで鍛刀をした事…顕現はしなかったこと。
ついでに、結界も張れることも告げた。
「ならば、なぜあの日に蛍丸の刃から身を守らなかった？」
「神様に人間如きがどうして逆らえましょう？」
「それでは術を身につけた意味がないだろう」
「それは、」
庭の真ん中で、思わず足を止めてしまった。
三日月様は数歩先の位置で振り返り、私の答えをじっと待っている。
ぴしゃり、と水の跳ねる音を聞きながら私は紡いだ。
「…守る力を…手段を、持ちたかったから、ですかね」
「己を、か？」
彼の問いに否定も、肯定もせずに歩き出した。
自分でも、どちらだかわからなかった。
「…そういえば、ですが。石切丸様は三日月様と同じ三条の刀派でいらっしゃるそうですね」
「ああ。もう一振りは五虎退だったか？…うむ、あの一派は兄弟故、一期一振に会いたいと駄々を捏ねなければ良いが」
「やはり、会わせることは出来そうにありませんか」
「やめておくのが懸命だ。…あやつは、もう壊れかけているのでな」
私のあからさまな話の逸らし方に何か言うでもなく、三日月様は話を続ける。
向かうのは私が自室として利用している部屋で、ふた振りは刀置台に埃除けの布を被せた状態で置いてあった。
…顕現、か。
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作者名：甘夏蜜柑
| 作成日時：2019年4月10日 21時
