二十五柱 ページ25
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「審神者様、審神者様!」
「なぁに、コン?」
「もうそろそろ、刀剣男士たちと接触を図りませんか?」
庭を生き返らせたあの日から、一週間が経った。
毎日、馬の餌やりとブラッシング、畑の野菜を収穫し、鯉に餌をやるというルーティンワークをこなしている。
これがなかなか、隠居生活のようで楽しいのだ。
…まあ、例の視線は毎日背中に感じているのだが。
「嫌だよ。向こうだって殺してまで追い出した審神者を迎え入れる気なんてないだろうし」
「ですが、日課をこなせと最近政府がうるさくなっております…」
「だから連絡手段を絶ってるんでしょうに。こういう意思表示だって向こうもわかっているはず」
「では、せめて鍛刀と顕現を…」
「母屋に入れません」
にべもなく切り捨てれば、泣き真似をするこんのすけ…もとい、コン。
長いからまとめさせてもらったのだ。
「ハッ、縮地がございます!」
「…縮地(しゅくち)?」
「はい。本丸内であれば、才のある方は縮地が使えるのでございます!」
縮地って、土地自体を縮めて瞬間移動するやつだったっけ。
仙術とか、神術とかそういう類いだった気が…。
「まずは目を瞑り、行きたい場所を思い浮かべてください。そうですね、今回は庭のどこかにしてください」
コンの言葉に従い、目を瞑る。
思い浮かべたのは厩の前だ。
「そして柏手を一回打ってください」
「柏手(かしわで)?」
「拍手のことでございます」
そんなことでできるのかと半信半疑になりながらも心を鎮める。
胸の前で合わせていた手を少しだけ離した。
そして、勢いよく手を打つ。
パンッ
こ気味良い音が響いた時、ふわりと風が頰を撫ぜる。
ゆっくりと目を開けば、そこには厩があった。
先ほどまでいたのは、離れの自室の部屋だったというのに。
「嘘、成功した…」
慌ててもう一度目を伏せ、今度は離れの自室を思い浮かべる。
胸の前で手を合わせ、打ち鳴らした。
パンッ
「お見事でございます、審神者様!」
目を開ければ、思い通りの部屋で。
待っていたのであろう、喜色満面の笑みを浮かべたコンが飛びついてきた。
それを受け止めながらも、私はぼんやりと思う。
拍手一つで瞬間移動なんて、随分と人離れしたなぁ。
「コン、とりあえず落ち着いてね」
「審神者様!選ばれしものなのです、もっと喜びましょうぞ!」
「…うん、でもね、足洗いたいんだよね」
裸足で外に出てしまったから。
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作者名:甘夏蜜柑 | 作成日時:2019年4月10日 21時